リーダーは、天才でないほうがいい

【牛窪】経営学における有名なリーダーシップ論に、「PM理論」があります。Pは「目標達成(Performance)」、Mは「集団維持(Maintenance)」の能力・行動の意。本来は、PもMも両方優れた上司、すなわち業績も人間性も兼ね備えた人が「理想の上司」なのですが、現実にはなかなかそういう人はいません。

マーケティングライターの牛窪 恵さん
マーケティングライターの牛窪 恵さん

政治家で言うと、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「P」には強そうですが、「彼になら付いていきたい!」と、人間性で魅了して集団を惹きつける(「M」)タイプではないかもしれない。その場合、下の人たちから「一方的だ」と反感や不満が生まれやすいんですよね。これを力で抑え込むのか、側近がフォローするのかなど思案するのが、組織力なんですが……、リーダーシップについては、どのように思われますか?

【中野】私は、リーダーは天才でないほうがいいと思うんです。それよりも、いかに天才たちを含めた有能な部下を引き入れられるかに尽きるのではないかと。

水滸伝』という古典の名作がありますよね。この中で、梁山泊に集まる豪傑たちは、それぞれに傑出した強みを持っています。しかし、それに対して、首領である宋江(そうこう)は、いいところがよくわからないんですよ。でも宋江は、ほかの人のいいところを見いだし、評価できる能力を持っている。ほかの豪傑たちは、自分の強みで戦うのですが、宋江は人の強みで戦うんです。そして、それをきちんと評価できる。だから、リーダーとして尊敬され、その地位にいられるのでしょう。

リーダーの器というのは、そういうものだと思います。国の規模が大きくなればなるほど、リーダーとしてそういう資質が必要になってくると思います。

リーダーの役割は最高の環境をつくること

【牛窪】そのお話で思い出しました! 先日亡くなった元GE(ゼネラル・エレクトリック社)会長のジャック・ウェルチの名言の一つに、“The team with the best players wins.”(最高の選手がいるチームこそが勝つ)があります。

彼は「選択と集中」を掲げ、大規模なリストラを敢行したことでも有名で、ブラックなイメージもあります。でも実は、優れたリーダーの条件を「社員やチーム全体をコーチングし、やる気を起こさせること」だと訴え続けていました。

【中野】さすが、経験値のある方の言葉は重みが違いますね。

【牛窪】やはり、プレーヤーが最高の力を発揮できる環境をつくれることが、いいリーダーの資質だと思うんです。前々回、「コロナ危機による不安な思考スパイラルを断ち切る小ワザとは」でも少しお話ししましたが、経営学ではこうした支援型のリーダーシップを、従業員に奉仕するという意味で「サーバント(使用人)リーダーシップ」と呼んでいます。