大事なのは、自分が偶然見聞きしたものだけで全体を判断するのではなく、統計データを確認する習慣を身につけることだ。そのときに注意したいのは、統計がとられた背景も理解すること。たとえば、がんの患者数は、統計でも確実に増加している。一方で、がんになりやすい年齢になる前に別の病気で亡くなる人が減少しているという見方もできる。また、がん検診を受ける人の数が大幅に増えて、検査の精度も上がっている。以前は見つからなかったがんが見つかるようになっているわけだ。

大騒ぎになった「老後2000万円不足問題」にも思い込みがある。この数字は金融庁が「貯蓄から投資へ」をPRするために、算出したものだろう。たしかに家計調査のデータでは、高齢夫婦無職世帯の収支は、毎月5万円程度の赤字になっている。その状態が30年続けば1800万円不足することになる。問題は高齢夫婦無職世帯の貯蓄額。平均で2484万円だという。これだけの貯蓄があるからこそ、毎月の収支が5万円の赤字になっているとも考えられる。貯蓄が少なければ、節約して資産を長持ちさせようと努力するはずだ。

統計リテラシーを身につけると、このような思い込みを防ぐことができるが、大事なのはビジネスの武器になること。データを集めて分析すれば、最速で最善の答えが出せる。

統計を使いこなすとどんなメリットがある?

売れる売れないの条件を導き出すのが最新の統計学

統計リテラシーを活用した人物として知られるのがフローレンス・ナイチンゲール。1853年に勃発したクリミア戦争に看護師として従軍し、戦地であることに気づいた。銃で撃たれて命を落とす兵士よりも、不衛生な病舎で感染症にかかって亡くなる兵士のほうが多いことだ。

とはいえ、女性が軍隊の方針に口を挟むことなど難しい時代。そこでナイチンゲールは、亡くなった人の死因を月別・原因別に集計し、軍の方針を変えさせた。集計の力を見事に活用したケースだが、これは19世紀の話。それ以降、統計学は急激な進化を遂げているのに、ビジネスの現場ではいまだ約160年前の統計学の域を出ていないことが多い。

たとえば、コンビニエンスストアが各店舗のPOSデータを集計して全店舗の売り上げを把握するのも同じこと。単に売り上げを把握するだけでは、せっかく集めたデータを使って「現状把握」しかやっていないことになる。現代的な統計学をきちんと活用すれば、売れる時間、買ってくれる人の共通点などを見つけ出して、どうすればもっとたくさん売れるのか、といった条件を導き出すことができるはずだ。

統計学の3つの活用法
利用される統計学は19世紀のまま止まっている