「ベッドに入る前に電子書籍を読むのは自殺行為」との記事の見出しは、読者に誤解を与えかねない。なぜ、そんな見出しがついてしまうのか。サイエンスライターで作家のトム・チヴァース氏は「メディアは『統計的有意』であるかには関心を持っていますが、効果量には注意を払っていないからです」という――。

※本稿は、トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

ベッドの若い女性は夜に携帯電話を使用しています
写真=iStock.com/EmirMemedovski
※写真はイメージです

ケータイの画面を見る時間の長さをどれくらい怖がるべきか

ケータイやタブレットの画面を見ている時間について、私たちはどのくらい怖がるべきでしょうか?

ここ数年、ありとあらゆる種類の大げさな言いがかりがありました――特にひどいのは、「iPhoneはある世代を破壊した」(※1)とか、「女子にとってソーシャルメディアは実際のところヘロインより有害」(※2)(この主張はその後削除されました)など。

この分野の研究はごちゃごちゃしていて分かりにくく、良いデータを取ることや関連性がないのにあると言ってしまわないようにするのが難しいために行き詰まっています。ただし、もっとも厳密な科学によれば、そうした関連性はほとんどないとされていますが(※3)

とはいえ、画面を見ている時間と睡眠との関連は、大きな注目を集めている分野です。2014年の「ベッドに入る前に電子書籍を読むのは自殺行為」(※4)という記事の見出しは、取り乱したというよりもはや悲鳴のようでした。この記事は「米国科学アカデミー紀要」[アメリカのトップ科学誌]に発表された研究(※5)に基づいていました。

明るい画面で読書をすると睡眠時間が減る

この研究のアイデアは、睡眠不足は健康に悪いというシンプルなもので、明るい画面で読書をすると睡眠時間が減ることを見いだしました。それゆえ、このニュース記事では、明るい画面で読書するのは自殺行為かもしれない、としたのです。

まず確認しておきましょう。この研究では確かに、画面の使用時間は睡眠時間と関連することを発見しています。研究の参加者は、ある晩は寝る前に電子書籍を読み、別の晩は一般的な印刷された本を読むよう指示されました(どちらを先に読むかが結果に与える影響を考慮して、読む順番はランダム化されました。つまり、何人かは印刷された本を先に、何人かは電子書籍を先に読みました)。

その結果、“統計学的に有意”な結果――p<0.01が得られました。これは、効果がまったくないという仮定の下で、同じ実験を100回行ったら、これほど極端な結果が出るのは1回未満であることを意味します。

これは非常に小規模の研究――たった12人――だったので、おかしな結果になることもあると説明していました。しかし時には、少数例の研究であっても、注意して扱う限り、研究の道筋の可能性を示すという意味で有用なこともあります。