2020年になってもまだ、この状況なのか……

A子さん夫婦間でも、お互いの疲労から些細な意見の違いでムッとし合うことが増えた。

「A子、外国語学習アプリだとかオンライン学習サービスとか動画配信サービスとか、子どもたちやお義父さんお義母さんのためと言っていろいろ新しく契約するけどさ、そんなに子どもにスクリーンタイム(タブレットやテレビなどのモニターを眺める時間)を増やして大丈夫なの? これまでのウチの方針は何だったんだよ?」

「そうは言ったって、ウチの親に保育園並みのナチュラルな保育で子どもと向き合ってくれなんて無理に決まっているじゃない。今はどこの家も配信サービスやタブレット頼みで、子どもをデジタル漬けにしているわよ。保育園や学校に行けない、プロの保育や教育を受けられないって、そういうことでしょう」

「期間限定だから許すけど、長引いたら考え直す必要があるぞ」

「わかってるわよ、だけどそもそも何なの? その『許す』って上から目線! あなたも父親として、こういう危機に一緒に考える立場じゃないの?」

保育園とは、学校とは、かくも子どもを健やかに預かり育ててくれる「母親の生命線」だったのだ。

「2020年になってもまだ、日本の子育ては母親の方が負担は大きいままです」。

そう実感したA子さんは、2週目後半からは子どもたちを保育園と民間学童へ戻すことにした。

日本の女性活躍を阻む見えない圧力

A子さんの話を聞くと、小さい子どもを育てながら「社会のイレギュラーな事態」に遭遇することの大変さを痛感させられる。そこで家族や関係者全員に平等に降りかかるストレスの調整役となり、精神的にも肉体的にも結局いちばん疲労困憊するのが母親であり続けている現状への不満も、とても理解できる。

忘れてはならないが、今回の全国一斉休校は特別支援校も対象だ。停止したのは「教育」だけではなく、「療育」も停止したのだ。在宅で過ごすことを余儀なくされた、障害を持つ子どもたちに状況を説明しながら自宅で療育を行うこととなった親の不安、負担感たるやいかほどだろう。

先述のA子さんの母親が、ストレス環境でふと本音を漏らしたように、こういった緊急事態に直面したとき「世間の視線」から母親の行動へかかる制限と、父親の行動にかかる制限に差がある点を見逃してはいけない。さまざまな「自粛」の圧力が、「母親のくせに」「母親なんだから」と男性よりも女性へとより強めにかかり、閉じ込めよう、押さえ込もうとしている場面はないだろうか?

社会の本音は、社会が弱った時に姿を現す。2020年になってなお立ち現れる「女に向けた本音」こそが、日本の女性活躍の課題なのである。

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河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト

1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム連載執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌など多数寄稿。2019年より立教大学社会学部兼任講師。社会人女子と中学生男子の母。著書に『女子の生き様は顔に出る』、『オタク中年女子のすすめ #40女よ大志を抱け』(いずれもプレジデント社)。