「ここでも母親の負担のほうが大きいんだ……」

あぶり出されたのは、両立の物理的な大変さだけではない。

都内の企業で働く、共働きの母親A子さんは「夫婦ともに、リモートワークだけではまわらない職業なので、子どものケア負担が大きく、いま本当に忙しくつらい」とこぼす。

保育園児と小学生低学年の子どもを、これまでは保育園と民間学童、そしてA子さんの祖父母の協力をフル活用することで仕事との両立をはかってきた。だが今回のコロナウイルス感染拡大においては、発症リスクが高いといわれる高齢の祖父母に保育園や学童の送り迎えを連日依頼するのは忍びない。

すると、祖父母は自宅で子どもたちの面倒を見ようと提案してくれた。ありがたく申し出を受けたが、いわゆる「スープの冷めない距離」とはいえ老夫婦二人の世帯に子どもを一日中預けるとなると、着替えや日用品、勉強道具、おもちゃや絵本など、ちょっとした引越しめいた大荷物で移動することになる。

昼食やおやつなども、A子さんや夫が朝、子どもたちめいめいの容器に入れて祖父母宅へ持参する。それくらい作るのに、と祖父母は言うが、高齢の両親に幼児の食事を準備してもらうのは大変だし、世代や食文化ギャップといったあたりもお互いのストレスになるからという、A子さん側の配慮だ。

共働きの夫は、保育園や学童の送り迎えにはかなり慣れてはいるが、配偶者の実家との協力体制は決して阿吽の呼吸というわけにはいかない。自分の実家ではないという遠慮もあり、また、できあがった「サービス」として子育てやケアを心得ている保育園や学童のスタッフとは違って、日々の説明指示をかなり詳細にせねばならないのをきらい、「この時期、家事は俺が多めに担当するから、実家との行き来はA子がやってくれないか」と言ってきた。

疲労した祖母がもらした言葉

言い争うのも面倒だし、期間限定だから仕方ないか、とA子さんは受け入れたものの、すると今度は長引くウイルス騒ぎへの緊張感もあって疲労の色が濃くなってきた祖母が、ポツリと言った。「こんなこと(コロナウイルス騒ぎ)になってもまだ母親が働かなきゃならないなんて、いやな世の中になったものよねぇ」。「それは言ってやるなよ、時代が変わったんだからさ」と祖父がたしなめるが、それを聞かされた働く母親であるA子さんには、全くなぐさめにならない。

ああ、またか。長年の両親とのやり取りですっかり解決したとばかり思っていた「小さな子どもを預けてまで働かなきゃならないの?」が、ここにきて噴き出すのだ。人間は、ストレスに弱い生き物だ。