「女性上司」ではなく“個人”として向き合う

3つめは、部下と対話する時間を増やすこと。対話によって、「女性上司」ではなく「○○さん=一人の人間」として認識してもらうのです。悩みの種になっている男性部下が軽視しているのは「女性上司」であって、その人の能力や人間性ではありません。

この場合、女性としてではなく一人の人間として見てもらえるようになればいいわけで、それには対話がいちばん有効な手段になります。この時大事なのは、電話やメールではなく直接対面して話すこと。

一気に距離を縮めようとする必要はなく、日々の中で直接対話する機会を増やすだけで十分だと思います。そうして行動を始めたら、後は相手の態度にこだわらず、淡々と仕事を進めていけばいいのです。

無意識の偏見を解消していく

対策を3つ紹介してきましたが、それでもやはり悩むことはあるでしょう。しかし、そもそも「女性に管理職は無理」という理解は、イメージの中だけで起こっているものです。現実的には、マネジメント力に性差があると実証されたことはありません。

女性上司の軽視は、無意識の偏見や思い込みからくるものなのです。これらを解消するためには、やはり直接話し合うのがベスト。先ほど3つめの対策として紹介した直接対話は、女性上司という表面的な見方を変えさせると同時に、軽視の原因になっている偏見を取り除く上でも有効なのです。

相手を「男性部下」として見ていないか

一方で、女性上司自身も自らを振り返る必要があります。マネジメントしにくい部下がいた時、その人を「男性部下」ではなく、一人の人間として見ることができているでしょうか。

できていなければ、彼との対話は自身のマネジメント力を向上させるうえでも役に立つでしょう。部下を一人の人間として見ることは、男女問わず上司として大事な心構え。その力を、対話を通して磨いていっていただければと思います。

私も学生を指導する立場ではありますが、学生からすれば、名前や顔を覚えて話しかけてくれる先生のほうが親しみも湧くでしょうし、授業をもっと熱心に聞いてくれるはずです。

私が彼らを名前ではなく「学生」として見ているうちは、彼らもまた私を「先生」としか見てくれないでしょう。会社でも同じではないでしょうか。一緒に働く人を、性別や肩書きではなく「○○さん」として認識し合うように心がければ、互いによりよい協力関係をつくっていけるように思います。

辻村洋子=構成

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。