その後、南極観測に隊員を輩出してきた研究室がある名古屋大学の修士課程に進み、海洋化学を学ぶなか、海洋観測船に乗って赤道航海に参加する機会に恵まれた。そこで海底堆積物サンプルの美しさに魅せられて、決まっていた就職をやめてしまった。そのまま博士課程に進み、初めて南極地域観測隊に参加することになる。教授は男子学生を派遣するつもりだったが、候補学生が断ったことを聞いた原田さんは、すかさず手を挙げた。

「君の博士論文は赤道でしょう? と驚く先生を必死で説得して席を確保しました。博士論文とは別に南極の試料でも論文を書くと先生と約束しました。南極に行くなんて2度とない、絶対にあきらめたくなかったんです。念願かなって行った南極の第一印象は、経験したことがない静けさ。まったく音がしない、無音すぎて耳鳴りがするんです」

初めての遠征から27年。2度目は女性夏隊長に指名

南極地域観測隊に女性が参加するのは原田さんで2人目。紅一点、夢中で観測に参加し、帰国まであっという間だった。

その後就職したJAMSTEC(海洋研究開発機構)では北太平洋や北極海の研究に従事し、南極とは関わりがなかった。それが、27年を経て国立極地研究所から声がかかり、今度は副隊長兼夏隊長として参加することに。長いブランクにかかわらず隊長に指名された理由について、原田さんは冷静に分析する。

「60次は節目ですし、そろそろ女性隊長を出さないとマズイぞという空気だったのではないでしょうか。そうなると南極の経験があり、海の研究者だということで白羽の矢が立ったのだと思います。これまでに海洋観測船でのクルーズリーダー経験もあり、海や航海に慣れていて好都合だったのかもしれません(笑)」

女性だということでツラい思いをしたことはないという。南極地域観測隊では女性隊員が増え、隊員は個室が持てるし、バス・トイレも男女別なのでプライバシーはある程度保てるという。そもそも地球環境分野の研究者はコミュニティーが小さく、大多数が男性。マイノリティーには慣れていて、苦労を感じたことはないそうだ。

「男性が多いなかで長年やってきているので、むしろ自分が男性化していないかが気になりますね。研究には多様性が重要ですから、採用時もいろんなタイプの人を入れるように心がけています。自分が女性だということも、研究には大事なダイバーシティ要素なので、女性らしいセンスを失わないようにしたいですね」

(左)2019年2月の越冬交代式の際、昭和基地前で撮影。副隊長である原田さんは、観測船「しらせ」で生活し、マネジメントや観測隊と外部の調整役をこなしていた。提供=JARE60。(右)南極観測船「しらせ」のヘリコプター甲板で60の形に並んで撮影した第60次南極地域観測隊人文字。提供=海上自衛隊
(左)2019年2月の越冬交代式の際、昭和基地前で撮影。提供=JARE60。(右)南極観測船「しらせ」のヘリコプター甲板で60の形に並んで撮影した第60次南極地域観測隊人文字。提供=海上自衛隊