なぜ「里帰り出産」はいけないのか

実は、一番よくないのは里帰り出産です。お父さんのためにも、お母さんのためにもよくありません。

妻の方は、実家なら食事の準備はしてもらえるから楽だし、夫はどうせあてにならないし……ということで里帰り出産を選んでしまうのでしょうが、それでは後が大変です。男性の方は、育児の大変さがイメージできませんから、妻子が家に戻るころには「妻ももう子育てに慣れただろうし、オレがそんなに頑張る必要はないよな」と勘違いしてしまう。

夫と妻の間で、ミルクやおむつなどの育児スキルの格差は広がり、妻の側も育児や家事を夫になかなか任せられなくなる。男性の、育児や家事への参入障壁が一気に上がってしまいます。その結果、妻はワンオペに陥って孤立し、夫への恨みを募らせて再び子どもと実家に帰ってしまうのです。そして夫のもとに送られるのが離婚届。僕はこうした「里帰り出産離婚」のケースをいくつか見てきました。

里帰り出産ではなく、「マイタウン出産」をしてほしい。まず夫が育休を取り、地域やNPOなどの支援を受けながら産後を支えるのです。これからは、親が高齢で里帰り出産が難しいケースは増えますし、共働きが当たり前になっているのですから、そろそろ古いOS(基本ソフト)をアップデートして、バージョンアップしないといけません。育児でバージョンアップしたOSは、将来の介護で大いに生きてくるはずなんです。

30代は、父親のような働き方をしたくないと思っている

僕の周りにいる30代の父親の多くは、普通に育休を取りたいと思っているんです。所得は伸びないし、妻にも働き続けてもらわないと家計も厳しい。企業も、男性の育休取得を進め、ワークライフバランスが取れる職場づくりをしないと、いい人材が採用できないことに気付き始めています。

彼らの世代は、「自分の父親のような働き方をしたくない」と思っています。毎日遅い時間に疲れて帰ってきて、家では何もしない。楽しそうじゃない。そうした姿を反面教師にしようとしています。

僕らの子どもたちの世代が、変えていくのではないかと思います。今はまだ残念ながら過渡期なんです。

僕の予想では、今から10年、15年後には、男性が当たり前のように育休を取る社会になっていると思います。ジェンダーギャップのランキングも、95位くらいにはなっているんじゃないでしょうか。

ただ、それでも95位くらい。ほかの部分は変わっても、政治の世界のジェンダー平等はなかなか進まないでしょうから、そこが足をひっぱるでしょうね。

写真=時事通信フォト

安藤 哲也(あんどう・てつや)
ファザーリングジャパン代表理事

東京・池袋生まれ。1985年明治大学卒業後、有紀書房に入社、書店営業で全国の書店を歩く。86年リットーミュージック入社、音楽雑誌・楽譜等の販売に従事。88年UPU入社、雑誌「エスクァイア日本版」「i-D JAPAN」の販売・宣伝担当。94年大塚・田村書店の3代目店長になる。96年東京・千駄木の往来堂書店をプロデュース、初代店長を務める。2000年オンライン書店bk1へ移籍、02年まで店長。その後、糸井重里事務所を経て、03年、NTTドコモの電子書籍事業に参加。2004年楽天ブックスの店長。その後、クロスメディア事業に従事、07年退社。2006年11月、父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを創立、代表を務める。