「複数の選択肢提示戦略」は様々な場面で有効

ところで、この「複数の選択肢を示す」ことの重要性は、心理学においてもいわれていることです。「マルチトラッキング」と呼ばれるものです(『図解 モチベーション大百科』池田貴将/サンクチュアリ出版)。

こんな実験があります。

飯塚健二『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』(三笠書房)
飯塚健二『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』(三笠書房)

広告代理店のAチームは、1回の提案につき1パターンの広告デザインを用意し、クライアント先から意見をもらうようにし、そのやりとりを6回繰り返しました。

Bチームは、1回の提案につき3パターンの広告デザインを用意し、クライアント先から意見をもらうよう指示し、そのやりとりを2回繰り返しました。

両チームとも、用意したデザインは全部で6パターンですが、結果は、Bチームが作成した広告デザインのほうが、評価が高かったそうです。

つまり、一度に複数の選択肢があったほうが建設的なやりとりがしやすくなるということを示しています。

行動経済学的に正しい選択肢の示し方

また、行動経済学では、「三つの選択肢では『真ん中』が最も多く売れる」といわれています。『経済は感情で動く はじめての行動経済学』(マッテオ・モッテルリーニ/泉典子訳/紀伊國屋書店)という本のなかで、「寿司屋のランチメニューで『特上・上・中』とあれば、『上』の注文が一番多い。一般に三つの選択肢では、真ん中が最も多く売れる。このことから導かれる帰結として、たとえば類似商品で四〇〇〇円と五〇〇〇円のものがあり、儲けるために五〇〇〇円のほうを『売りたい』と思えば、六〇〇〇円の選択肢を付け加えればよい」

とあります。複数の選択肢を示してあげることの有用性を示しているのではないかと思います。いずれにしても、「オプション型」が強い人には、複数の選択肢を示してあげることが定石というわけです。

写真=iStock.com

飯塚 健二(いいづか・けんじ)
新経営サービス人事戦略研究所マネージャーiWAMプラクティショナートレーナー

1977年生まれ。大阪大学卒業後、独立系システム開発会社にてSE・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系コンサルティングファームにて人事コンサルタントとして従事した後、現職。中小企業から大手企業まで幅広い人事・人材育成コンサルティングの実績を持つ。経営戦略の実現に向けた人事制度改革・定着化や要員・人件費マネジメントの指導に加え、本書で紹介する「iWAM(アイワム/ベルギー生まれの総合適正検査ツール。職場における行動特性に注目し、人が職場において何に動機づけられ、どのような行動を取るのかを知るための分析手法)」の知見を活かしたコミュニケーション研修やビジネススキル研修、コーチング研修を手がける。