商品やサービスが溢れ、モノが売れない時代といわれる今、なぜか「約4万円もするホームベーカリー」がアメリカでバカ売れしました。コンサルタントの相良奈美香氏は「最初の売れ行きはいまいちでした。でも、あるものを一緒に並べただけで急にバカ売れしたのです。あのアップルも、この『おとり効果』を巧みに利用した販売の仕方を取っています」といいます――。

※本稿は、相良奈美香『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

若い妻が台所で生地をこねて夕食を準備しています。
写真=iStock.com/Andrii Zastrozhnov
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店頭の「一工夫」で商品がバカ売れする

みなさんは行動経済学というと、どんな印象をお持ちでしょうか。ビジネスパーソンのみなさんであれば、「自分とは関係がない」と思う方が大半かもしれません。

しかし、実は世界では行動経済学をビジネスに取り入れる企業が増えています。なぜなら、お金が動く「経済」という枠組みの中で、人はどう行動するのかを理解することが、ビジネスでは重要であり、それを可能にするのが行動経済学だからです。

行動経済学を用いたビジネスの成功例を紹介しましょう。

売れ行きが今ひとつ…が「おとり効果」で一変

行動経済学の理論で、人は無意識に比較してしまうという理論を基にしてできた「おとり効果(Decoy Effect)」があります。「誰も選ばないような選択肢(おとり)」をあえて追加することで、「もともとあったもの」を選ばせるという理論です。

実際におとり効果の事例があったのは、ウィリアムズ・ソノマ。カトラリーやお皿から家電まで高級キッチン用品を扱う小売店としてアメリカでは人気を集めています。

あるとき、ウィリアムズ・ソノマでは、275ドルのホームベーカリー(家庭用パン焼き機)を販売することになりました。しかし、事前のマーケットリサーチでは「買いたい!」という声が圧倒的だったのにもかかわらず、売れ行きは今ひとつ。

そこで、あえてより高い415ドルの新しいホームベーカリーも並列して販売することにしました。ちなみに、この原稿を書いている2023年5月時点では1ドル=137円ですので、275ドルは約3万7000円、415ドルは約5万6000円です。一つ5万円を超えるホームベーカリーはかなり割高です。ウィリアムズ・ソノマは本当に売る気があるのでしょうか。

しかし、この結果、面白い現象が起きました。もともとあった275ドルのホームベーカリーがバカ売れするようになったのです。なぜでしょうか。