2022年のアメリカでのマーケティング調査で、対象者48%が、日用品の「選択肢がありすぎて選べない」と回答しました。コンサルタントの相良奈美香氏は「人は選択肢が多すぎると、どれも選べなくなってしまうことが行動経済学の研究で証明されています。このれをビジネスで生かそうと思ったら、『マーケティング』の段階と『店頭』での段階とで、選択肢の出し方を変えるべきなのです」といいます――。

※本稿は、相良奈美香『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

バーテーブルの上にたくさんのビールを
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人は選択肢が多すぎると、選ぶことすらできなくなってしまう

みなさんは行動経済学というと、どんな印象をお持ちでしょうか。

実は世界では行動経済学をビジネスに取り入れる企業が増えています。なぜなら、お金が動く「経済」という枠組みの中で、人はどう行動するのかを理解することが、ビジネスでは重要であり、それを可能にするのが行動経済学だからです。

ここでは、行動経済学を用いたビジネスの例を紹介しましょう。ここで紹介するのは行動経済学の中の「選択オーバーロード(Choice Overload)」という理論です。

ビジネスパーソンの皆さんでしたら、人に選択肢を示す場面は頻繁にあるでしょう。わかりやすい例ですと、あなたの企業の商品やサービスを買う顧客に、どれくらい商品やサービスの選択肢を示すべきでしょうか。また上司に案件を出すとき、どれだけの案をどういう風に出すべきでしょうか。

「選択オーバーロード」とは、「人は選択肢が多すぎると、どれも選ぶことすらできなくなってしまう」理論です。

トイレットペーパーに4000の選択肢はいらない

2022年のアメリカでの「選択オーバーロード」の調査によると、対象者の28%が「買い物をする際、選択肢があまりにも多すぎる」という回答でした。特に日用品は、48%のアメリカ人が「選択肢がありすぎて選べない」と述べています。

例えば、アメリカのアマゾンで「トイレットペーパー」と検索すると4000件以上ヒットします。必需品ですし、「1枚のシングルロール」か「2枚重ねのダブルロール」もしくは「柔らかさ」など好みはあると思いますが、確かなことはたった一つ。絶対に4000もの選択肢はいらないということです。

伝統的な経済学では、「人間は4000のトイレットペーパーを比較検討し、価格、品質、レビューもすべて見て一番いいものを選択する」ということを前提に考えます。実に合理的です。

しかし、実際にはどうでしょうか。行動経済学は「実際の人間の行動」を説明するための学問です。多少の比較検討はするかもしれませんが、実際、人は感覚で適当に選びます。

そもそもなぜ、小売店やサイトはたくさんの商品を並べるのか? 理由は明確で、選択肢が少なすぎると人は興味を持たないからです。「選択肢は多いほうがよい」という思い込みを利用して、何種類も似たような商品を積み上げることにより、それを魅力的に思いお店にやってくる顧客を増やす。

食料品店で心配する女性
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その代わりに選択オーバーロードを生み出し、結果、消費者はどれも選ばない、という皮肉な状況になっているのです。