結論がまとまらず時間ばかり過ぎていく――。こんな会議が1日に1回でもあるとうんざりした気分になってしまいますよね。人事・人材育成コンサルタントの飯塚健二さんが、認知科学をベースにした「iWAM(アイワム)」を活用し会議に現れる困った人を上手にコントロールする方法を教えてくれます。

※本稿は飯塚健二『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

ミーティング (オフィス ・ オス ・ メス)
※写真はイメージです(写真=iStock.com/chachamal)

話を広げすぎるAさん、細部にこだわりすぎるBさん

とある会議で、司会進行役のXさんは、

「今度、Y社に出す提案について、事前に提案書をみなさんにお配りしていますが、この提案内容の方向性について、ご意見をお願いします」

と出席者に問いかけました。

すると、Aさんは、

「この案もよいと思いますが、こういう提案もあると思いますし、また別の観点からはこんな提案も考えられるし、こんな提案もありだと思います」

と、ひたすら選択肢を広げるような発言ばかり。

一方で、Bさんは、

「この提案はいいとして、具体的にはどう進めていきますか? 具体的な手順を一つひとつ示してもらわないと、さっぱりイメージできません……」

と提案内容ではなく、仕事の「進め方」に対して突っ込んでくる。Xさんは、今回の提案内容の方向性について意見交換をしたいのに、とんちんかんな回答が続き、議論がまったく進まない……。


会議で見かける困った人を「iWAM(アイワム)」で分析

「iWAM」では、「選択理由」と呼ばれるカテゴリがあり、このAさんのように、いろいろなアイデアを発散するタイプを、「オプション型」と呼び、Bさんのように仕事の手順や進め方に終始するタイプを、「プロセス型」と呼びます。

どちらのタイプかは、「あなたはなぜ、その仕事がしたいのですか?」という質問への回答で見極めることができます。

《オプション型》の傾向が強い人
「やりたいから」
「やりがいがありそうだと感じたから」
「~という可能性を追求したくて」
《プロセス型》の傾向が強い人
「~といった経緯で」
「~という事情があって」
「~というなりゆきで」
「たまたま」

本稿では、オプション型の人への対処法を解説していくことにしましょう。

大風呂敷を広げたがる「オプション型」タイプの特徴

「オプション型」のクセが強い人は、「ほかの選択肢は?」「別の方法はないか?」「こんな可能性もあるのでは?」といったことに関心を持ったり、強く志向したりするクセがあります。決まった手順やスケジュールに従うよりも、新しいアイデアやさまざまなオプションを考えることをモチベーションの源にする傾向があります。

そのため、既定の考え方にとらわれず、みんなが行き詰まったときに突破口となるアイデアを出したり、創造力豊かで、新たな道を切り拓いていったりする存在になる可能性を秘めています。

ところが、この傾向だけが強く出すぎてしまうと、アイデアや選択肢をひたすら拡散するだけで、何一つ決めきれない、やり遂げられない「口先だけ」の人と思われる危険性もあります。

大風呂敷タイプによく効く「複数の選択肢提示戦略」

「オプション型」のクセが強い人は、選択肢が少ないと、「それだけ?」「ほかにはないの?」と思ってしまう人ですから、複数の選択肢を示してあげることが、うまくコミュニケーションを取るための秘訣です。「複数の選択肢提示戦略」です。たとえば、

→「考えられる方法は三つあります。一つ目は~」
→「その理由には二つ考えられます。一つ目は~」
→「三つの観点から判断することが重要です。一つ目は~」

というように、一つに限定しないように話してみましょう。安心して聞いてもらうことができるはずです。

じつは、このオプションを示す方法は、我々がコンサルティングを行なう際の基本中の基本です。いきなり、一つの案だけを伝えて、これでいきましょうといっても納得させることはできません。よっぽど、お客様がコンサルタントのことを信頼していれば別かもしれませんが。その意思決定の影響が大きくなればなるほど、お客様は慎重に判断したいからです。
そこで大切なことは、複数のオプションを示すこと。そして、そのオプションのメリットやデメリットなどを一緒に比較検討していくことで、お客様は納得感のある意思決定を行なうことができるのです。

これは、何もコンサルティングだけにいえることではなく、何か企画を出すときや、問題解決を行なう際に、意思決定者が「オプション型」が強い人であるならば、複数のオプションを示すことは必須です。

「複数の選択肢提示戦略」は様々な場面で有効

ところで、この「複数の選択肢を示す」ことの重要性は、心理学においてもいわれていることです。「マルチトラッキング」と呼ばれるものです(『図解 モチベーション大百科』池田貴将/サンクチュアリ出版)。

こんな実験があります。

飯塚健二『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』(三笠書房)
飯塚健二『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』(三笠書房)

広告代理店のAチームは、1回の提案につき1パターンの広告デザインを用意し、クライアント先から意見をもらうようにし、そのやりとりを6回繰り返しました。

Bチームは、1回の提案につき3パターンの広告デザインを用意し、クライアント先から意見をもらうよう指示し、そのやりとりを2回繰り返しました。

両チームとも、用意したデザインは全部で6パターンですが、結果は、Bチームが作成した広告デザインのほうが、評価が高かったそうです。

つまり、一度に複数の選択肢があったほうが建設的なやりとりがしやすくなるということを示しています。

行動経済学的に正しい選択肢の示し方

また、行動経済学では、「三つの選択肢では『真ん中』が最も多く売れる」といわれています。『経済は感情で動く はじめての行動経済学』(マッテオ・モッテルリーニ/泉典子訳/紀伊國屋書店)という本のなかで、「寿司屋のランチメニューで『特上・上・中』とあれば、『上』の注文が一番多い。一般に三つの選択肢では、真ん中が最も多く売れる。このことから導かれる帰結として、たとえば類似商品で四〇〇〇円と五〇〇〇円のものがあり、儲けるために五〇〇〇円のほうを『売りたい』と思えば、六〇〇〇円の選択肢を付け加えればよい」

とあります。複数の選択肢を示してあげることの有用性を示しているのではないかと思います。いずれにしても、「オプション型」が強い人には、複数の選択肢を示してあげることが定石というわけです。