計画は、自分がいなくなった後のことを考えて立てる

永田さんは2017年に「リゾナーレ八ヶ岳」へ戻り、昨年には総支配人に就任した。宿泊、婚礼、外来、団体と4事業を複合的に運営することの難しさ、大型施設を統括する責務を担い、自身も変化しなければと感じていた。

「今までの経歴からいくと、私もずっとここにいるわけではないので、自分がいなくなった後のことを考えて計画を立てることを習慣にしているんです。どんなリーダーに代わろうが、スタッフには、自分たちがどう在りたいのかを理解し、表現できる力を養うことが私の役割。そのためにはまず情報のインプットと対話をしながら、ともに考える訓練を身の周りから始めていきました」

今は個別にじっくり話す時間をなかなか取れないが、日々の会話で工夫しているのは、館内で会う人たちに笑顔で挨拶を欠かさないこと。廊下ですれ違ったタイミングや帰り道でも声をかけ、ひと言、ふた言でも言葉をかわす。そうした積み重ねのなかで、スタッフとの距離も近くなっていく。

自信がなくても、リーダーになれる

星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳の総支配人・永田淑子さん

女性社員からの信頼は厚く、キャリアアップに意欲的な後輩も育ってきた。一般には「自信がないから」と昇進を断る女性も少なくないが、永田さんはむしろ自信がないからこそ、これまでのキャリアに繫がっているのかもしれないという。

「私は自信がないから、いろんな人の意見を聞くのかもしれません。リーダーとしては決断をし、それに対する責任を取ることが役目ですが、決断をする材料は私だけが提示するものではなく、逆にそれでは面白くないと思います。特に私たちのようなサービス業においては画一的なものではなく、個々のスタッフがいろいろなアプローチをすることにお客さまも価値を見出されるのではないかと思う。だからこそ、いろんな人の意見が大事ですし、議論していくうちにこれはいけるかもしれないという自信になったり、仮に失敗しても次につながる糧になるはず。私も自分自身はそんなに自信がなくても、どうにかなると思っているのかもしれませんね」

もの静かで淡々とした物腰のなかにも、熱い思いを秘め、人を包みこむような温かさを感じられる永田さん。自身もあちこち壁にぶつかりながら、本当に面白いと思えることに挑戦してきただけに、スタッフにも楽しく働いてほしいと願っている。まもなく八ヶ岳に春が訪れると、リゾナーレの石畳の通りは色とりどりの花で彩られるという。スタッフも温かな笑顔で迎えてくれることだろう。

歌代 幸子(うたしろ・ゆきこ)
ノンフィクションライター

1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。