“時短勤務で給料そのまま”の理由

そう決断した彼の理屈はこうです。

「優秀な女性であれば、10時~16時の時短勤務であっても、9時~17時勤務の人と同じか、それ以上のパフォーマンスを発揮する。であれば正規の給料を払うのに何の問題もないだろう?」

彼の会社は女性向けの就職・転職あっせんやキャリアカウンセリングサービスを行っており、全従業員約50人のうち8割以上が女性ゆえに、女性スタッフの活用は会社の生存そのものがかかっているといっても過言ではないという状況です。

彼は、会社がそういう方針(能力さえあれば、育児しながら収入を減らさず働ける)であることを、社内で公表できるいい機会だったといいます。

「そんな働き方をしてもいいんだ」と、他の女性スタッフにも安心感を与えることで、「育児との両立ができる会社」「長く働ける会社」と思ってもらえる。そうして優秀な女性人材が辞めてしまうリスクを下げられるというわけです。

独身女性からの不満は出ないのか

この話を聞いて、私は一つの疑問がわきました。

「それでは、未婚女性や子どものいない女性社員から、『不公平だ』と不満が出るのでは?」

それを彼に聞いてみたところ、そこは時短勤務とフルタイム勤務に関係なく、あくまで成果による評価を行うことが前提である。なので評価を毎年見直して対応する点を、事前に社員にしっかり説明することが大切だそうです。

では、なぜ彼はそこまでして彼女たちを引き留めるのでしょうか。

彼が言うには、自社の業務に習熟し、その会社の風土を理解した社員が定着することは、採用や教育といったコストの面だけではなく、スキルの伝承や企業の成長にも欠かせない。それに彼女たちは、何年も勤めて自社や顧客のことをよくわかっている。

「そんな人には、男女に関係なく、長く定着してもらいたい。だから会社の制度に合わせてもらうのではなく、社員一人ひとりに合わせてでも働きやすい環境を整備したほうが合理的だ」

とのことです。