「100年前の母親像」を要求する日本の社会
約100年前に外国人のフィルターを通して描かれた典型的な日本人の母親の姿と、外国に出ている私が、現代の日本の電車の中で見かける母親の姿はそれほど大きくずれているものではありません。おんぶひもがベビーカーに変わっているくらいではないでしょうか。海外ではベビーカーのままバスや電車に乗り込む母親に対して誰かが手を差し伸べるのが当たり前です。また、父親、祖父母、ヘルパーなどに育児や家事を分散させます。そうすることによって母親は自分の人生を取りもどすことができるのです。
世界経済フォーラム(WEF)の「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」2019年版によると、日本は調査対象となった世界153カ国のうち、121位(2018年は110位)とG7のなかで最低でした。政府は社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標を掲げていましたが、実際2020年になっても現実は遠く目標に及んでいません。それは、日本という社会全体が、今でも母親に対してトルストイの娘が驚きをもって見た100年前の母親像を要求しながら、同時に指導的地位に就くことを求めようとするからではないでしょうか。
日本が抱えている、少子化や女性の社会進出が進まない問題を少しでも解消させるためにも、まずは電車の中で子連れの母親(父親)や体が不自由な人に対して暖かい目で見守り、必要な際には手を差し伸べてあげてほしいと願います。外国人旅行客が増えたためか、大都市ではずいぶん電車の中のマナーが改善されたとも感じます。今後も日本により多くの外国人に訪れてもらい、より多くの日本人が海外に出て、世界の常識を目の当たりにすることが重要なのではないでしょうか。
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外資系投資銀行を経てFPとして独立。2015年からシンガポールに移住。『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』など著書多数。