一和会系組長にアポを入れ、豪邸へ入った

当時、実話系週刊誌が毎週、この抗争事件を報じていたが、現代や文春などは読者層も違うとして、あまり熱心にやっていなかった。

だが、山口組組長が殺されたとなると、がぜん、読者の関心も高まり、その筋に詳しいライターたちに依頼して取材合戦が熾烈になっていた。

私のいた月刊誌でもやろうということになり、私とトルコ風呂(今のソープランド)に詳しく、そこからヤクザにコネのある記者と2人で一和会系の組長にアポを入れ、取材に向かった。

組長の豪邸の周りを多くの警察官が取り囲んでいた。身分証の提示を求められたが、「取材だ」というと通してくれた。

大きな門をくぐると、若いヤクザたちに取り囲まれ、「何しに来た? どこの者だ?」と、口々に誰何すいかされる。月刊誌の名前を告げても、「しらねぇな、そんな雑誌」とニベもない。

後でヤクザの一人から聞いたのだが、彼らは現代や文春などは読んだことがないという。愛読書は実話や大衆で、ここから情報を得る。一般人の現代や文春のようなもので、一番クオリティーが高いのがアサヒ芸能だそうだ。さしずめヤクザ界の中央公論といったところか。

アサ芸に自分の名前が載ると切り抜いておいて、みんなに自慢そうに見せて回るそうである。

一斗樽にふぐ刺し、呼べば燗酒が出てくる

ようやく通された大広間には、組長が床の間を背に座り、その周りに子分衆、といっても幹部たちだろうが、ズラリと座って、まるでヤクザ映画の1シーンのようだった。

組長の横には一斗樽がいくつも並べられ、膳にはふぐの刺身が人数分置かれていた。組長曰く、警察がうるさくてゴルフにも行けない。外へも出られないから、知り合いが酒やコメ、名産品を山ほど送ってくれるので、こうやって毎日、宴会をやっているというのである。

その口調にも、態度にも、抗争の渦中にいるという緊張感は感じられなかった。あまりのなさに、これで山口組と闘えるのかと心配になったほどだった。

そんなとき、先のような感想を持ったのだ。兄貴がタバコを取り出すと、若いのが飛んできて火をつけてくれる。「酒」といえば、すぐに燗酒が出る。まるで大学のスポーツ部のように、きびきびしていて動きに無駄がない。

チンピラのうちは辛いだろうが、ある程度の役職が付けば、ヤクザって居心地はいいのだろうなと思わせた。

だが私には、命じられるまま鉄砲玉になって、敵を殺す度胸はない。