同年齢でも給与に格差

しかし、問題は日本的雇用とジョブ型の異なる2つの仕組みを同じ企業内で併用できるかである。仮に従来の新卒一括採用の「総合職」とジョブ型の「専門職」の複線型のコースを作れば、一方は年功型賃金、もう一方は高報酬型変動賃金となり、同じ年齢でも大幅な給与格差が生じる。たとえば総合職コースの30歳社員は年収600万円、専門職コースの社員に3000万円が支給されることも想定される。それによって社員間のねたみや嫉妬が生まれ、会社の一体性や仕事に対するモチベーションが低下しないのか。

じつは大手企業の中にはすでに高額の報酬でデジタル技術者を雇っている。大手人材紹介業の社長は「電機、自動車などの日本の大手企業でも優秀なデジタル技術者であれば最低でも1500万円、2000万円の年収を提示してくる」と語る。しかし、入社しても普通の社員ではないという。

「どこの企業も自社の賃金体系の縛りがあり、同じ年代の社員よりはるかに高い給与を払うことはできないし、仮にそんなことをすれば必ず社員間で妬みや嫉みなどハレーションが起こる。それを避けるために一般的に2つの方法を使っている。一つはAIやIT事業の別会社をつくり、本体とは別の賃金体系で高い給与を支払う。似たような会社をシリコンバレーなど海外に設置している会社もある。もう一つは正社員ではなく、契約社員として雇うやり方。賃金体系に縛られないので高い報酬が出せる」(前出・社長)

しかし、こうしたやり方では採用数も少なく、安定した人材の確保には限界がある。できれば正々堂々とちゃんとした人事制度の中で採用したいという思いがある。経団連が日本型雇用システムの見直しを提起した背景にはこうした事情がある。

早期退職が同時並行でくる

社員や労働組合の反発を恐れて二の足を踏んでいる経営者も少なくないが、経団連は来年の春闘で正式なテーマとして労働組合と交渉することになる。その結果、若手社員を含めた「ジョブ型雇用」が浸透することになるかもしれない。なぜなら日本型雇用とジョブ型は前述したように相いれない仕組みであり、いずれ日本型雇用システムが淘汰されていく可能性もある。

そして同時並行的に発生するのは、もう一つの柱である終身雇用の機能不全による早期離職の促進である。経団連の中西会長は今年5月こう発言していた。

「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい。働き手がこれまで従事していた仕事がなくなるという現実に直面している。そこで、経営層も従業員も、職種転換に取り組み、社内外での活躍の場を模索して就労の継続に努めている。利益が上がらない事業で無理に雇用維持することは、従業員にとっても不幸であり、早く踏ん切りをつけて、今とは違うビジネスに挑戦することが重要である」(5月7日定例記者会見、経団連発表)。

こうした経団連会長としての一連の発言が大企業のリストラを後押ししている。東京商工リサーチの調査によると、2019年1~11月に希望退職や早期退職者を募集した上場企業は延べ36社で対象人員は1万1351人。2018年の4126人の約3倍増となり、6年ぶりに1万人を超えた。しかもその中にはアステラス製薬、中外製薬、カシオ計算機、キリンホールディングスなど業績好調にもかかわらず、リストラに踏み切る企業も目立つ。

さらに11月28日には、これまで希望退職募集を実施したことのない味の素も50歳以上の管理職を対象に希望退職募集を発表している。来年は日本的雇用システムが大きく転換する年になるかもしれない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。