年功型とジョブ型の併用は可能か

年功序列賃金に代わる「職務を明確にするジョブ型雇用」という言葉が出てくる。これに関して経団連の中西宏明会長が19年12月9日の定例記者会見でこう発言している。

「改善すべき項目はずいぶんある。今の雇用システムが典型的で、ゼネラリストとして採用し、そのキャリアを積んでいく中でいろんな仕事をさせて、最後により高い地位にどうやって昇進させていくかという仕組みが、全部一括採用と終身雇用とセットになっている面もある。新たなグローバル競争社会の中で、これ一本ではうまくいかないという反省の時期にきているのではないかと思います」

ただし、終身雇用や年功序列賃金をやめるというわけではなさそうだ。こう続ける。

「一括採用、終身雇用、年功序列という3つの言葉でくくられるような雇用システムを守ってきたことにいろいろな課題があることは共通認識ではあるが、ではこれを全部ご破算でということになるかというと、やはりそうはいかないし、私のところ(日立製作所)でもそうだ。さまざまな雇用形態の長所をうまく組み合わせ、社員がスキルを磨き、かつ安定的に仕事ができるように再設計していきたい」

ということは終身雇用・年功型の仕組みは残しつつも前述した「ジョブ型雇用」の制度を導入し、両制度を併用した人事制度の構築を提案していることになる。しかし、そんな制度の導入は可能だろうか。

25歳と40歳が同じ給料に

じつはジョブ型雇用と日本的雇用システムとは真逆の関係にある。日本の場合は、その人の潜在能力や特性を見て「この仕事ならやれそうだ」と、配置(配属先)を考える。そしてある程度技能が向上すると「この仕事もやれるのではないか」と期待を込めて次の仕事を与える。つまり人を見て仕事を当てはめる「人基準」が基本だ。

それに対して欧米のジョブ型は、やるべき仕事(職務=ジョブ)が明確に決まっており、その仕事をこなせる人を当てはめる「仕事基準」が基本だ。

したがって、日本的雇用システムでは専門性を持たないノースキルの新卒の学生でも採用されるが、欧米では専門スキルが重視される。そして給与もジョブで決まる(職務給)。年齢は考慮されず、どんな職務を担当しているかという仕事の内容と難易度(ジョブグレード)によって決まる。もちろん仕事と関係のない扶養手当や年齢給、持ち家の有無で決まる住宅手当など属人的手当もない。また、同じ職務にとどまっている限り、25歳と40歳の給与は変わらない。給与を上げようと思えば、がんばって職務レベルを上げるか、給与の高い職務にスイッチするしかない。

言うまでもなく経団連がジョブ型採用を提起しているのは、AIやデータサイエンスなどの先端のデジタル技術者を高額の報酬で獲得できるメリットがあるからだ。アメリカや中国などに比べてAI人材の数が決定的に不足しているという事情もある。