断念したときの国民の失望は大きい

民間企業の男性育休取得率(18年度)は、わずか6.16%。厚労省や民間シンクタンクなどの意識調査では、育休取得を阻む背景として、日本企業に漂う独特の雰囲気、空気感であることが浮かび上がっている。育休経験のある三重県の鈴木英敬知事は、小泉氏に再三アドバイスをしており「組織の育休取得率向上には、トップの率先垂範が大事。大臣も職員も育休を取るという考えが重要」として、大臣か職員、どちらかが先との論理をかざし始めた小泉氏の姿勢にくぎを刺す。

NPO法人「ファザーリング・ジャパン」代表理事の安藤哲也さんも「周囲や上司に忖度することなく、自分の家族のことは自分で決めてほしい。空気を読まずに、空気を変えてこそリーダーではないか」とエールを送り、ひとりの父親として、雰囲気を一変させる選択をしてほしいとの考えを強調する。

内閣の一員である閣僚は、いわば最大級の公人に当たる。その公人が、育休を取得すれば、波及効果は環境省どころか霞が関全体や地方自治体、さらには民間企業に間違いなく拡大し、プラスの影響は計り知れないものになるはずだ。方や、断念したとなれば、取得率は官民ともに低レベルが続き、首相が掲げ続ける女性活躍にも黄色信号がともりかねない。何よりも、取得を期待した声なき声の人々が失望するのは、想像に難くない。

半日休や遅めの登庁という方法も

小泉氏が懸念しているとみられる期間の幅、休んでも支給される議員報酬、そもそも国会議員の取得が許されるのかなど、反対派が挙げる諸問題については、小泉氏の取得を機に与野党が論議を活発化させ、追って結論を出していけば良いのではないか。国会議員は育休法の対象となっていないがゆえに、小泉氏はより柔軟に運用できるはずだ。数日間や1週間を取るのが理想ではあるが、半日休や遅めの登庁などでも構わない。それでも、産後の女性には大きな助けになるのは間違いない。

筆者は2005年春、小泉氏の父である小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、政治記者としてのキャリアをスタートさせた。日本中が熱狂した同年夏の郵政選挙では、遊説で国内を駆け回る純一郎氏の一挙手一投足を身近で追い掛け、新幹線の駅ホームで会った子連れの親子によく手を振っていた姿を思い出す。

常に世論の動向を気にし、劇場型政治を築き上げた純一郎氏。小泉氏は、育休を取得したとしても「(週2回の)閣議や国会に出ないことはありません」との考えを漏らしているという。ならば、閣議後の記者会見で多くのテレビカメラを前に、育休中の様子、かけがえのない子育てを通じて新たに見えてきたもの、芽生えた感情を言葉巧みに積極的に国民向けに発信し、大いに世論を喚起してもらいたい。

以前の記事「なぜ世界はそこまで男の育休を認めないか」で書いたが、私自身1年間の育児休業取得歴がある。政治記者として、育休経験がある父親として、小泉氏には是非、躊躇することなく、勇気を持って一歩を踏み出し、少子化の歯止めがかからない日本社会の変革に向け、大きなインパクトを与えることを期待する。

写真=時事通信フォト

小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト 元米国在住駐夫 元共同通信政治部記者

1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。