来月いよいよ出産予定、進次郎氏の育休取得は?
先日、フィンランドで世界最年少、34歳の女性首相が誕生し、女性が半数以上を占める内閣を発足させた。女性閣僚が居並ぶ写真を見るにつけ、その活躍ぶりには目を見張る限りだ。北欧各国では、男性の育休が何ら珍しくないこともあり、女性の社会進出もごく自然な流れという。翻って、男性の育休取得が遅々として進まない日本。2020年1月の第1子誕生を控え、育休取得を検討している小泉進次郎環境相の動向に注目が集まっている。小泉氏は今、何を考え、どのような決断をするのだろうか。
米国の有力雑誌タイムがこのほど、世界で最も影響力がある「次世代の100人」に選び、次の首相候補の一人に紹介した小泉氏。国内メディアの世論調査でも「次期首相にふさわしい人物」として常に上位に位置しており、首相候補との見方は国内外で定着している。その将来を渇望されているのは、衆目の一致するところだ。
堅くて古い日本を変えられるか
8月、滝川クリステルさんとともに首相官邸を訪れ、安倍晋三首相や菅義偉官房長官に結婚、妊娠を報告した。その後の記者団へのぶら下がりで、育休取得を検討しているとの意向を表明。異色のビッグカップル誕生に、一般ニュース番組だけでなくワイドショーでも大きく取り上げられた。国会議員による育休取得の是非をめぐっても、当時入閣が取りざたされていたことと相まって、大きな議論が沸き起こった。
9月の内閣改造で、当選4回目の38歳で環境相に抜擢された直後には「(育休取得を)検討していると言っただけで、こんなに賛否両論含めて世の中が騒ぎになっている。日本って堅いね、古いね」と揶揄しつつ、自らの発信力が長けているとの自信をのぞかせた。ニューヨーク訪問時の「気候変動問題にセクシーに取り組む」とのいわゆるセクシー発言は、海外メディアにも報じられた。
取得に関する発言がトーンダウン
その後も、育休取得に意欲的な姿勢を示し続けてきた小泉氏だが、最近になって育休に踏み切れなかった場合を見据えた「予防線」を張り始めた。11月の会合で「環境省職員にとって育休を取りにくい環境を残したまま、(自分が)取るわけにはいかない」と発言をトーンダウン。小泉氏に近い若手国会議員によれば「閣僚という重責なので、まとまって休むわけにはいかないのではないかと悩んでいるようだ」という。
内閣人事局によると、2018年度に育児休業を新規で取得した男性の国家公務員の割合は12.4%で、前年度を2.4ポイント上回る過去最高の取得率を記録した。府省庁別では、厚生労働省(53.5%)や財務省(36.3%)が高い反面、防衛省(3.8%)、外務省(9.4%)などが低く、環境省は17.8%。高くはないが、全体平均を上回っており、決して低いとも言い切れない。これを理由に挙げるのは、首をかしげざるを得ない。ましてや、小泉氏の「上司」である首相が、男性国家公務員の育休1カ月以上取得に向けた制度づくりを既に指示済みだ。
断念したときの国民の失望は大きい
民間企業の男性育休取得率(18年度)は、わずか6.16%。厚労省や民間シンクタンクなどの意識調査では、育休取得を阻む背景として、日本企業に漂う独特の雰囲気、空気感であることが浮かび上がっている。育休経験のある三重県の鈴木英敬知事は、小泉氏に再三アドバイスをしており「組織の育休取得率向上には、トップの率先垂範が大事。大臣も職員も育休を取るという考えが重要」として、大臣か職員、どちらかが先との論理をかざし始めた小泉氏の姿勢にくぎを刺す。
NPO法人「ファザーリング・ジャパン」代表理事の安藤哲也さんも「周囲や上司に忖度することなく、自分の家族のことは自分で決めてほしい。空気を読まずに、空気を変えてこそリーダーではないか」とエールを送り、ひとりの父親として、雰囲気を一変させる選択をしてほしいとの考えを強調する。
内閣の一員である閣僚は、いわば最大級の公人に当たる。その公人が、育休を取得すれば、波及効果は環境省どころか霞が関全体や地方自治体、さらには民間企業に間違いなく拡大し、プラスの影響は計り知れないものになるはずだ。方や、断念したとなれば、取得率は官民ともに低レベルが続き、首相が掲げ続ける女性活躍にも黄色信号がともりかねない。何よりも、取得を期待した声なき声の人々が失望するのは、想像に難くない。
半日休や遅めの登庁という方法も
小泉氏が懸念しているとみられる期間の幅、休んでも支給される議員報酬、そもそも国会議員の取得が許されるのかなど、反対派が挙げる諸問題については、小泉氏の取得を機に与野党が論議を活発化させ、追って結論を出していけば良いのではないか。国会議員は育休法の対象となっていないがゆえに、小泉氏はより柔軟に運用できるはずだ。数日間や1週間を取るのが理想ではあるが、半日休や遅めの登庁などでも構わない。それでも、産後の女性には大きな助けになるのは間違いない。
筆者は2005年春、小泉氏の父である小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、政治記者としてのキャリアをスタートさせた。日本中が熱狂した同年夏の郵政選挙では、遊説で国内を駆け回る純一郎氏の一挙手一投足を身近で追い掛け、新幹線の駅ホームで会った子連れの親子によく手を振っていた姿を思い出す。
常に世論の動向を気にし、劇場型政治を築き上げた純一郎氏。小泉氏は、育休を取得したとしても「(週2回の)閣議や国会に出ないことはありません」との考えを漏らしているという。ならば、閣議後の記者会見で多くのテレビカメラを前に、育休中の様子、かけがえのない子育てを通じて新たに見えてきたもの、芽生えた感情を言葉巧みに積極的に国民向けに発信し、大いに世論を喚起してもらいたい。
以前の記事「なぜ世界はそこまで男の育休を認めないか」で書いたが、私自身1年間の育児休業取得歴がある。政治記者として、育休経験がある父親として、小泉氏には是非、躊躇することなく、勇気を持って一歩を踏み出し、少子化の歯止めがかからない日本社会の変革に向け、大きなインパクトを与えることを期待する。