うまく主張を通すアサーティブ・コミュニケーションとは

アサーティブの名詞形「アサーション」は、「自己主張」と訳されることが多い。ゆえに、アサーティブ・コミュニケーション(以下AC)というと、自分の思いを一方的に主張するという印象を受ける。しかしながら、行動療法に起源を持つACは、自分とともに相手のことを尊重したうえで、自分の意見や気持ちを、その場に適切な言い方で表現するコミュニケーションスタイルである。

例えば、ドラマの中でもあったように、上司からのきつい言葉や強い叱責があったとき、パワーハラスメントと思うことがあっても、そのことを指摘することは難しい。ただ、上司から同様の行為が続くと、メンタル不調になる可能性もある。このようなときに、ACが必要である。ACの基本は、自分自身に正直になり、率直に伝えることにある。感情的になってはいけないが、自分の感情を伝えることが大切である。ただし相手の置かれている立場や価値観を尊重することが前提だ。

上司がきつい言葉を使うのは、それなりの理由がある。部下の自分がうまくできなかったり、業績が上がらなかったりしていることがその要因であることが多い。しかし、上司からきつい叱責を受けることで、部下自身の業績が上がるわけではない。そのことを冷静に話し合うことが大切なのだ。

「○○さんは、私の業績が上がることを期待していると思いますが、強く叱責されると、萎縮してしまい、業績が上がるようになりません。私は、△△が苦手です。そのことがうまくなると業績も上がると思いますので、教えていただきませんか」と率直に伝えてみることで、上司の言葉遣いも改善していく可能性がある。

自分が思っていることを主張したいのなら、相手の立場で考え、相手を尊重することから始める。相手も尊重されていないと感じれば、敵対心が生じ、言葉もきつくなる。あるいは、無視するようになる。そのような人間関係では、ストレスがたまるし、業績も上がらない。いい人間関係を構築するためにもACは、試す価値があると思う。

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古野 庸一(ふるの・よういち)
リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 所長

1987年東京大学工学部卒業後、リクルートに入社。南カリフォルニア大学でMBA取得。キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事、2009年より現職。週末にはスペシャルオリンピックスの活動に従事。近著に『「働く」ことについての本当に大切なこと』(白桃書房)がある。