「同期のサクラ」の忖度しない言動に、すがすがしさを感じた視聴者も多かったのではないだろうか。しかし、サクラのようにストレートに間違いを指摘したりモノを申せる人は多くはない。“上司の意向”や“上司の言動”が正しくないと思ったとき、どんな話し方でアプローチすればいいのだろうか――。
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入社式で社長に「話が長い!」と指摘

高畑充希主演の連続ドラマ「同期のサクラ」(日テレ系、水曜10時)が12月18日に最終回を迎えた。ドラマは、小さな離島から上京した主人公、北野桜(以下、サクラ)が大手ゼネコンに就職してから、同期とともに歩んだ10年の物語である。古い体質の会社でよくある理不尽な慣習やパワハラやセクハラに対して、サクラの忖度そんたくしない言動に視聴者からの共感が集まり、SNS上でも話題に。高い視聴率を記録した。

入社式という場でサクラは、社長の発言に対して誤りを指摘し、「話が長い」と言ってしまう。また新人研修で橋梁きょうりょうの模型を作成した際には、こだわりすぎて、同期から「この際だから言っとくけど、私たちはあなたを仲間だと思っていない」と言われてしまう。

そういうサクラだが、自分の夢や信条を持ち続け、言動がブレなかったことで、同期の仲間から徐々に信頼を得ていく。一方会社からは評価されず、希望した部署に配属されず、左遷されてしまう。

特に夢があるわけでもなく、たまたま受かった会社の中で、当たり障りなく働いていく同期。上司の理不尽な要求に対して、異を唱えることができずに、ストレスを抱えて働いていく同期。仕事がうまくできずに会社に貢献できない、それゆえ、周りに支援を頼めず、職場で孤立していく同期。いずれも、会社で働く人にとって、身に覚えがあることである。そのような場面で、サクラ自身も悩むことも多いが、祖父の力を借りて仲間を支援していく。

サクラのような同僚がいたら心強いが、実際に皆さんはサクラのようになりたいだろうか。

忖度することの是非

自分の夢や信条に従って仕事をしたいと思う人は多いだろう。

サクラには、3つの夢がある。「故郷に橋を架けること」「一生、信じ合える仲間をつくること」「その仲間とたくさんの人を幸せにする建物をつくること」。いずれも素敵すてきな夢であるが、一人ではできない夢であり、周りとともにつくっていくものである。実現しようと思えば、周りと協調していくことも必要である。どうすれば、周りと協調しながら、自分がやりたいことをかなえていくことができるだろうか。

よく語られるように、「忖度」という単語には、ネガティブな意味はない。「相手の心を推測する」という意味である。近年、上役の意向を推し量り、上の者に気に入られようとして、その意向を推測するという意味合いで使われるようになった。上役からすれば、自分の意向をくみ取って、自分が言う前に、いろいろなことが準備されているということであれば、「よく気が利くやつだ」ということで、覚えもめでたくなる。そして、出世も早くなる。実際、「気が利く」ということが昇進の基準になっている組織もある。そういう仕組みで回っている組織は、昔からあるし、今でもある。

忖度できること、つまり、相手が何を考えているか推測する能力は、社会的動物である人間にとって、大切なことである。いつも相手の意向を言語で確認しながら、行動することは現実的でなく、推測して動くことは常にあるからである。

「上司の意向が正しくない」状況が増えている

問題は、忖度してからの行動、つまり、上役の意向に沿って何かを行うことが、組織にとってプラスでないことを起こしてしまう場合である。

上役の意向はわかるのだが、組織にとってプラスになると思えないとき、部下はジレンマに陥る。組織にプラスにならないとわかっていても上役の意向通りの行動をするのか、意向を無視するのか。最近、このケースは増えている。なぜなら、環境が変わり、昔の成功モデルが通じなくなったとき、上役が思うことが正しくないケースが多くなってきているからである。そのようなジレンマに陥ったときに、どうすればいいのだろうか。

そのようなケースにおいて有効なアサーティブ・コミュニケーションという方法がある。

うまく主張を通すアサーティブ・コミュニケーションとは

アサーティブの名詞形「アサーション」は、「自己主張」と訳されることが多い。ゆえに、アサーティブ・コミュニケーション(以下AC)というと、自分の思いを一方的に主張するという印象を受ける。しかしながら、行動療法に起源を持つACは、自分とともに相手のことを尊重したうえで、自分の意見や気持ちを、その場に適切な言い方で表現するコミュニケーションスタイルである。

例えば、ドラマの中でもあったように、上司からのきつい言葉や強い叱責があったとき、パワーハラスメントと思うことがあっても、そのことを指摘することは難しい。ただ、上司から同様の行為が続くと、メンタル不調になる可能性もある。このようなときに、ACが必要である。ACの基本は、自分自身に正直になり、率直に伝えることにある。感情的になってはいけないが、自分の感情を伝えることが大切である。ただし相手の置かれている立場や価値観を尊重することが前提だ。

上司がきつい言葉を使うのは、それなりの理由がある。部下の自分がうまくできなかったり、業績が上がらなかったりしていることがその要因であることが多い。しかし、上司からきつい叱責を受けることで、部下自身の業績が上がるわけではない。そのことを冷静に話し合うことが大切なのだ。

「○○さんは、私の業績が上がることを期待していると思いますが、強く叱責されると、萎縮してしまい、業績が上がるようになりません。私は、△△が苦手です。そのことがうまくなると業績も上がると思いますので、教えていただきませんか」と率直に伝えてみることで、上司の言葉遣いも改善していく可能性がある。

自分が思っていることを主張したいのなら、相手の立場で考え、相手を尊重することから始める。相手も尊重されていないと感じれば、敵対心が生じ、言葉もきつくなる。あるいは、無視するようになる。そのような人間関係では、ストレスがたまるし、業績も上がらない。いい人間関係を構築するためにもACは、試す価値があると思う。