保育士の待遇改善と負担軽減を実現できたはずなのに

保育ニーズの急激な増加を受けて、都市部の自治体では、保育施設をこれまでにないスピードでふやしてきました。その結果、深刻な保育士不足が発生しています。

保育士が不足する背景には、施設増のほかに、処遇が低い、負担が重いなどの労働条件の悪さを理由とした離職が多いことがあることも明らかになっています。処遇については、家賃補助やキャリアアップ補助金などの制度が実施されて改善の途上にありますが、賃金構造基本統計調査での「全産業計」と「保育士」の格差は埋まっていません(図表2)。

これを一気に埋めるのは非現実的と思われるかもしれませんが、単純計算すると、年間4000億円を保育士給与に投入すれば埋まるはずなのです。また、保育士の負担軽減には、配置基準(保育士一人で何人の子どもを見るかという基準)の改善が最も有効ですが、2012年に国が自ら試算したプランでは、1300億円かければ1歳児や4・5歳児の配置基準を改善できることがわかっています。合計5300億円です。

「幼児教育無償化」の7800億円の予算を使えば、どちらも即座にできたのです。

「質」を後回しにするこわさ

保育の質は、保育士の働きに左右されます。保育士の人数が足りなかったり、未熟だったりすれば、保育の質は低下します。

保育園を考える親の会には、「保育士不足で、毎日散歩に行けないと言われた」「夏の水遊びができないと言われた」「先生が忙しすぎて、子どもへの当たりがきつい」という声が届きます。このところ、虐待まがいの保育が次々に報道されていることも気になっています。

保育士の人数の不足も解消しなければなりませんが、同時に良質な人材が保育士になってくれなければ、保育の質を上げることはできません。この時期の子どもの発達は、親や保育者などの養育者のかかわりの質(応答性など)の影響を大きく受けることがわかっています。保育は、子どもの安全を守りお世話をするだけではありません。人格形成期の子どものデリケートな育ちを支え促す「教育」でもあるのです。1・2歳児の半数が保育園等に通っている時代。保育士は日本の未来を担う子どもたちを心身ともに健やかに育てるという重要な役割を担っています。