危機感を持つことが、SDGs推進のカギ
SDGsに注目が集まる一方で、「経済が抑制されないか」という懸念もあるかもしれません。「そうした疑問にどう返答しますか?」という吉田さんからの投げかけに、島田さんはズバッと回答。
「これが大切だからやるんだ、というリーダーの思いが大事。ESG投資がきっかけになるのも悪くないでしょう。株価を上げ、売り上げをあげるのがきっかけでもいいと思います。ただ、本当にいいことをするんだって思っていないと、続かないし、偽善になってしまいます」
小泉さんは、SDGsをきちんと定義し、メッセージを発することの重要性を指摘。
「日本人は言葉をファジーに使う傾向がありますが、ESGのようにきちんとした尺度でメッセージングしていくことが大事。優秀な人材を獲得するためにも、ESGのコアな戦略が事業の成長とリンクしていかなければいけないと思います」
越智さんは、日本と海外でのSDGsへの熱量にはまだ違いがあると話します。
「とくに欧州では世界の秩序が脅かされ、それによって収益も脅かされている。だからSDGsに取り組まないといけないという決定的な危機感があります。企業社会もその価値を共有していますね。日本ではまだそこまでいっていない。ただ、台風被害などで、気候変動を実感として感じるようになってきたのはモメンタムなことかもしれません。本質的な危機感をどう感じるか、それが日本におけるSDGsの課題でもあると思います」
グレタさんについてどう思う?
環境に関する取り組みでいえば、「国連気候アクション・サミット2019」でのスウェーデンの環境活動家、グレタさんの演説も印象的でした。二酸化炭素排出量の多い飛行機に乗ることを拒否し、ヨットで大西洋を横断してサミットに出席した彼女。温暖化対策に真正面から取り組まないのであれば、「若い世代はあなた方を許さない」と糾弾しました。
「私も衝撃を受けましたが、みなさんはグレタさんについてどう思われますか?」と吉田さん。
これに対して越智さんは「現実をストレートに言われたと思います」と答えます。
「SDGsをしっかりやらなければいけない。ただ、生態系が壊れていると言われたとき、SDGsは改善策ではありますが、解決策ではないかもしれない。SDGsでは間に合わないかも。今を生きる政治家としては、SDGs、改善策を一生懸命やります。ただ、100年後からみると、もっとかなり抜本的なことをやらないと、グレタさんが言っていることは実現できない。それを地球に生きる70億人のなかで合意形成ができるのか、彼女はその問いかけをし、道筋を考えるきっかけ、刺激を与えてくれたと思います」
大きな時代の転換点を迎える今、ポスト資本主義となった持続可能性という価値観。未来を生きる若者から高齢者まで、すべての世代が考えるべき問題といえるでしょう。
吉田さんは「人間が追い求める富が、時代とともに変わってきている。富の意味するところは、帝国主義時代は土地、資本主義ではGDPでしたが、今は環境、持続可能性へと変わりつつあります。グレタさんは、環境が富なんだと訴えている」と指摘。若い世代の新しい価値観と既存の価値観とのズレをなくしていく必要もありそうです。
現実をきちんと見つめながら、17のゴール、一つひとつに対して何をやっていくか、どんな目標を立てて進んでいくか。アプローチの仕方や考え方について、またSDGsのもたらす人々が生きやすい未来について、示唆に富んだセッションは時間が過ぎるのがあっという間。自分は何ができるか、何をなすべきか。参加者の胸にも小さな火が灯る時間となりました。
写真=iStock.com