SDGsは、世界共通で取り組む社会の大きな枠組み
「いま、あらゆるビジネスがSDGsを中心に変わっていく可能性があります」。こう切り出したのは、モデレータを務めるクラウドワークス社長の吉田浩一郎さん。
スピーカーに、衆議院議員の越智隆雄さん、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス取締役の島田由香さん、メルカリ社長の小泉文明さんを迎え、セッションがスタートしました。
まず、SDGsの全体像について、越智隆雄さんがオリジナルのチャートを使って解説。
「SDGsとは、2030年までに達成すべき国際目標で、17のゴールが設定されています。貧困や飢餓をなくす、ジェンダーを平等にする、自然環境を守る、取り組むべき課題はたくさんありますが、私の解釈では、SDGsとは開発と経済を好循環のなかで回していくこと。戦後、帝国主義から資本主義へと時代が変りました。その次に来るのは何かと模索してきたなか、SDGsはひとつの方向性を示すものだと思います」
SDGsが注目される背景として、2006年に国連で責任投資原則が採択され、環境、社会、ガバナンスを示す「ESG」が、投資家の間でも意識されるようになったことも挙げられます。また第四次産業革命の技術を使い、超スマート社会をつくるというSociety5.0という概念も、政府の公式文書のなかに組み込まれるように。ESGやSDGsは、企業、投資家、経済全体で取り組む社会の枠組み、となりつつある現状が示されました。
SDGsの取り組みは、ブランドの成長を7割速める
続いてユニリーバ・ジャパンの島田由香さんから、メーカーでのSDGsの取り組みと、その成果について発表がありました。
「ユニリーバは、サスティナビリティを暮らしの当たり前にすることを目標にしています。もちろん営利企業ですから、売り上げや利益も上げる。それと同時に環境負荷を下げていくことをビジョンとし、社会に貢献する組織をつくることを大事にしています。サスティナビリティに取り組むのは、最終的にはコスト削減にもつながるから。SDGsは、いい地球、いい社会をつくり、人が持っている『幸せにありたい』ということにつながるものです。そして、そういう目標をはっきり持っているブランドは、約7割も成長が速い、ということも私たちの調査でわかっています」
ブランドごとに目標を立てるとともに、ユニリーバ・ジャパンという会社としても大きな目標を立て、達成に向けて進んでいるそう。たとえば、事業所で使用するエネルギーを再生可能エネルギーでまかなう、という目標はすでに3年前に達成。また、製品に使うプラスチック量については、2025年までに半減させる、という目標を立てています。
株価を上げるメルカリのSDGs実践例
昨年上場し、瞬く間に市場でも大きな存在感を示しているメルカリ。世界的カンファレンスの場でも、「メルカリは環境負荷が少なく、さらにきちんとマネタイズしている。サスティナビリティを支えるプラットフォームでありながら、収益を上げ、時価相場を上げているのは世界的にもまれだ」と高い評価を得ていると言います。
事業の成長と環境、社会課題の解決という3つの軸の真ん中にESGを入れていく。上場に当たってこのように決めた小泉さんは、社内プロジェクトを立ち上げ議論をつくしたと言います。現在は、優先順位の高い課題からプロジェクトを推進中。
「事例としてわかりやすいのは、メルカリエコパック。段ボールがゴミになるという自己矛盾を解決するために、繰り返し使える梱包材を開発しました。また、子どもたちに向けて、環境によく、お金のことも勉強できる教育プログラムも用意しています。また、二次流通がわかると、一次流通における在庫の最適化にもつなげられるのではないか、と考えていて、一部のメーカーとそういった話もしています。メルカリは、創業以来ずっと『捨てるをなくす』がモットー。エコパックも教育プログラムも、いろんなものを循環させていきたいという思いがベースにあります」
危機感を持つことが、SDGs推進のカギ
SDGsに注目が集まる一方で、「経済が抑制されないか」という懸念もあるかもしれません。「そうした疑問にどう返答しますか?」という吉田さんからの投げかけに、島田さんはズバッと回答。
「これが大切だからやるんだ、というリーダーの思いが大事。ESG投資がきっかけになるのも悪くないでしょう。株価を上げ、売り上げをあげるのがきっかけでもいいと思います。ただ、本当にいいことをするんだって思っていないと、続かないし、偽善になってしまいます」
小泉さんは、SDGsをきちんと定義し、メッセージを発することの重要性を指摘。
「日本人は言葉をファジーに使う傾向がありますが、ESGのようにきちんとした尺度でメッセージングしていくことが大事。優秀な人材を獲得するためにも、ESGのコアな戦略が事業の成長とリンクしていかなければいけないと思います」
越智さんは、日本と海外でのSDGsへの熱量にはまだ違いがあると話します。
「とくに欧州では世界の秩序が脅かされ、それによって収益も脅かされている。だからSDGsに取り組まないといけないという決定的な危機感があります。企業社会もその価値を共有していますね。日本ではまだそこまでいっていない。ただ、台風被害などで、気候変動を実感として感じるようになってきたのはモメンタムなことかもしれません。本質的な危機感をどう感じるか、それが日本におけるSDGsの課題でもあると思います」
グレタさんについてどう思う?
環境に関する取り組みでいえば、「国連気候アクション・サミット2019」でのスウェーデンの環境活動家、グレタさんの演説も印象的でした。二酸化炭素排出量の多い飛行機に乗ることを拒否し、ヨットで大西洋を横断してサミットに出席した彼女。温暖化対策に真正面から取り組まないのであれば、「若い世代はあなた方を許さない」と糾弾しました。
「私も衝撃を受けましたが、みなさんはグレタさんについてどう思われますか?」と吉田さん。
これに対して越智さんは「現実をストレートに言われたと思います」と答えます。
「SDGsをしっかりやらなければいけない。ただ、生態系が壊れていると言われたとき、SDGsは改善策ではありますが、解決策ではないかもしれない。SDGsでは間に合わないかも。今を生きる政治家としては、SDGs、改善策を一生懸命やります。ただ、100年後からみると、もっとかなり抜本的なことをやらないと、グレタさんが言っていることは実現できない。それを地球に生きる70億人のなかで合意形成ができるのか、彼女はその問いかけをし、道筋を考えるきっかけ、刺激を与えてくれたと思います」
大きな時代の転換点を迎える今、ポスト資本主義となった持続可能性という価値観。未来を生きる若者から高齢者まで、すべての世代が考えるべき問題といえるでしょう。
吉田さんは「人間が追い求める富が、時代とともに変わってきている。富の意味するところは、帝国主義時代は土地、資本主義ではGDPでしたが、今は環境、持続可能性へと変わりつつあります。グレタさんは、環境が富なんだと訴えている」と指摘。若い世代の新しい価値観と既存の価値観とのズレをなくしていく必要もありそうです。
現実をきちんと見つめながら、17のゴール、一つひとつに対して何をやっていくか、どんな目標を立てて進んでいくか。アプローチの仕方や考え方について、またSDGsのもたらす人々が生きやすい未来について、示唆に富んだセッションは時間が過ぎるのがあっという間。自分は何ができるか、何をなすべきか。参加者の胸にも小さな火が灯る時間となりました。