それほどシビアな要求ではない
ここでの提案、つまり一日8時間から一日6時間に法定労働時間を引き下げながら、それに対して最低時給を約1.3倍程度引き上げは、素朴に考えれば企業にとって必要な人件費の総額はそれほど変わらないはずです。法定労働時間が変わらないまま、単純な賃上げ要求を行えば、人件費の総額が増えるため、企業社会はこれを嫌います。それを踏まえれば、それほどシビアな要求ではないはずです。
もちろんここまで述べてきたのは、あくまで数字を念頭に置いた思考実験であって、現実味を考えるには、もう少し詳細なデータや調整、交渉が必要になるはずです。労働関連のルールの大幅改正は、負担が大きいので敬遠されがちということもあります。
そうはいっても、30年ほど前まで、日本社会は土曜日も働いていたことを考えればできないというわけでもないはずです。明らかに時代の流れは、労働時間の短縮と労働生産性改善を両立させる新しい方法を模索しています。前述したように、職場の合理化なるものは実は労働生産性に即効性や劇的な影響を持たず、また人間が人間であるがゆえに業務効率の短期間における顕著なパフォーマンス改善も難しいでしょう。給料も伸びないなかで、いまより高効率な働き方なるものが可能でしょうか? また人々はそのモチベーションを保てるでしょうか。
市場の影響を受け、また企業社会の反対が根強く、大幅な賃上げが難しく、職場の顕著なパフォーマンス改善が難しい一方で、労働時間は法定労働時間の変更に強く影響を受けます。法改正を行えば、一定期間後、確実に法定労働時間を変更、短縮することができます。このように考えを巡らせてみるとき、法定労働時間の一日6時間、一週30時間化の魅力に気づくと思うのです。
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1983年京都生まれ。博士(政策・メディア)。専門は社会学。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)、『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』(日本実業出版社)ほか多数。