子供が病気になった場合は「VAB」で休める

仕事が始まると、「子供が病気になって、仕事を休まなければいけない」という日が必ず訪れる。日本で働いていたときは、復帰した年は子供が病気になるたびに休んで、有給休暇をすべて使いつくした。スウェーデンではそういうときのために、また別の休暇制度がある。正式名称Vard av barn(子供の看病)の頭文字をとって、通称VAB(ヴァブ)と呼ばれる制度だ。

どこの職場でも、しょっちゅう誰かが「今日はVABにつき」と休んでいる。育児休業制度に比べると日本のニュースでこの制度が取り上げられることは少ないように思うが、こちらも親にとっては非常に重要な役割を果たしている。

この制度は、子供が十二歳になるまで一年につき百二十日まで利用でき、一日当たり給料の八十パーセント弱が支払われる。

子供の風邪が大人にうつることもよくあることだが、その場合はなんとまた別の休暇制度があって、例えば夫の職場では最初の十四日間は会社から給料の八十パーセント弱が支払われ、そのあとは支払元が社会保険庁へと移る。ただし休んだ一日目は無給で、二日目からしか支給されない。そうしなければ「ああ、今日なんか体調悪いなあ、休んじゃおう」という社員があとを絶たなくなるのだろう。

上記三種類の休暇制度を駆使すれば、スウェーデンの有給休暇——つまり神聖なる五週間の休み——は、子供が病気をしようとも、自分が風邪を引こうとも、一日も減らないのである。有給休暇の日数自体は日本でも二十日という企業もあるだろう。数字の上では四週間の夏休みをとれる計算になる。ただ日本の場合は毎年それをすべて使い切るという土壌がまだないし、子供や自分の病気で休むために使ってしまうことが多い。そこがスウェーデンとの大きな違いだ。

「ママがバリバリ働くこと」が理想的とされる国

スウェーデンでは家事も育児も夫婦で分担するし、保育園や育児休業などの社会制度も整備されている。ママがバリバリ働くことは、世間体が悪いどころか、むしろ理想的だとされる。

久山葉子『スウェーデンの保育園に待機児童はいない 移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし』(東京創元社)

だからこそスウェーデンの女性たちは、プライベートでも幸福な家庭を維持しつつ、キャリアを積むことができる。無理なく、人間らしい生活ができるのだ。

一方で、その状況に甘んじずにさらに上を目指す女性も多い。

例えば上司は、育休を利用して、校長の資格をとるために大学に通っていた。

このように、育休を利用して大学に通う人は珍しくない。スウェーデンの大学は無料だし、資格をとるために大人が通うことを前提にしているコースも多い。“子供がいるから大学に行きなおしてキャリアチェンジするなんて無理”ではなくて“子供ができたから四時とか五時に帰れる仕事に転職したい。そのために大学に通って資格をとろう”と考えるのである。

スウェーデンでは大学に通う人の五人に一人が十八歳以下の子供を持つ親だと言われている。就学中は、働いている場合と同等に、子供を保育園に預ける権利がある。

このような制度があるから、親になってからでもキャリアチェンジをすることが可能だ。

ただ育児に明け暮れるのではなく、何か目に見える成果を残したいのかもしれない。赤ちゃんがいれば睡眠時間の確保もままならないのは世界じゅう同じはずなのに、彼らのパワーには恐れ入るばかりである。

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久山 葉子(くやま・ようこ)
翻訳家

1975年生まれ。神戸女学院大学文学部卒。交換留学生としてスウェーデンで学ぶ。大学卒業後は北欧専門の旅行会社やスウェーデンの貿易振興団体に勤務。2010年に夫と娘の家族3人でスウェーデンへ移住。現在はレイフ・GW・ペーション『許されざる者』、ダヴィド・ラーゲルクランツ『ミレニアム5—復讐の炎を吐く女』(共訳)などのスウェーデン・ミステリ作品の翻訳のほか、日本メディアの現地取材のコーディネーター、高校の日本語教師などとして活躍中。