男性の育児休業率が高い理由は「フレキシブルな育休」
ここで大事なのは、育児休業の取得は一回きりというわけではないことだ。夫婦の仕事の都合を考えて、例えば“ママ六ヶ月→パパ六ヶ月→ママ三カ月→保育園入園”という取り方もできるし、“ママ六ヶ月→パパ六ヶ月→保育園入園→夏休みの時期にママ三ヶ月→”というパターンもありだ。このフレキシブルさが、男性の育児休業の高さにつながっている。
日本では暗黙のうちに“育児休業は一回きり”という前提があると思う。男性に一年間育児休業を取得しろというのは、スウェーデンでだって無理がある話だ。パパかママのどちらかが一度しか取得できないような制度だったら、スウェーデンの男性の育児休業取得率もかなり低くなるだろう。日本では「男性の育児取得率が低い」と皆が嘆いているが、このあたりを改善しないままだと、いくら「(奥さんは専業主婦だけど)一週間育児休業を取得してみました!」という男性がニュースになっても、取得率はたいして上昇しないのではないか。
実際のところ、スウェーデンでも女性の育児休業取得率の方が圧倒的に高い。そこには、スウェーデンでも男性のほうが平均的に収入が高いという現実がある。世帯収入を考えると、女性が休んだほうが得なのだ。それでもなるべく両方の親が育児休業を取得するよう“片方の親だけが取得できるのは四百八十日のうちの三百九十日まで”というルールが設けられた。つまり、母親だけしか育児休業を取得しない場合、残りの九十日は消えてなくなってしまう。
その政策の効果もあってか、わたしの周りの男性で育児休業を取得したことがないという人はほとんどいない。例外は、スウェーデンの子育て概念が通用しない海外で勤務をしていた男性くらいだ。
女性の長期的なキャリアを考えた育休制度だから意味がある
育児休業についてもうひとつ付け加えておきたい重要な点が、この四百八十日は子供が保育園に入ってからも取得できるということだ。物心がついてから親子で思い出を作りたいと思う場合は、残った育児休業を利用して夏休みを長くとることもできるのである。
日本のような里帰り出産という習慣はなく、親が近くに住んでいようといまいと、出産前後のママをサポートするのはパパだ。そのため、出産後はパパも同時に十日間育児休業を取得することができ、その間は給与の九十パーセントが支給される。この十日間の意義は、ママのサポートのためだけではない。パパも出産に立ち会い、誕生直後の子供と一緒に過ごして絆を深めるためのものでもある。すでに上の兄弟がいる場合は、その子たちの面倒を見るのもパパの大事な役目だ。
育児休業というのは長ければいいというものでもない。日本のように育児休業を三年に延ばすなどという案は、どう考えても女性の長期的なキャリアを無視したシステムだ。スウェーデンがたどり着いたのは、それぞれの家庭や仕事、経済的な状況に合わせて、パパもママもフレキシブルに取得できるシステムだ。