モンスターのどこに注目したらいいか

モンスター2
営業はえらい! 自負が強すぎるタイプ

吉村晃広(角田晃広)―屋台骨という自負を持つ管理職―
部下からの申請に大したチェックをせずに承認印を押す営業部長である。社内規定の遵守を求める経理部には「営業が会社の屋台骨であり、多少のことは目をつぶるべきだ」とくってかかる。そこには、「日々、汗を流し、頭を下げながら営業活動を行っている部下が会社のために必死に取り組んでいることを他部門もわかって欲しい」という前提をにじませる。しかし、自身が沖縄支店の経理部長に異動になると、手のひらを返したように社内規定を遵守し、いい加減な経費申請やコスト意識の低い社員を正すようになる。

吉村のケースは一言でいえば「立場変われば……」ということであろう。しかし、組織人事的な観点で捉えると、ジョブローテーションの重要性を示す象徴的な事例である。異動によって今まで気づかなかった課題発見や改善アイデアが生まれる。また、お互いの前提を理解しながらコミュニケーションできるメンバーが増え、部門間の連携が進む。業務が専門化し、ジョブローテーションが難しい組織では部門の異なるメンバーとの交流機会を作ることだけでも効果があるのではないだろうか。

モンスター3
合理主義でからまわるタイプ

円城格馬(橋本淳)―徹底した合理性を重視する経営者―
社長の息子であり、海外から帰国し専務として着任するや否や、徹底した合理化を推し進める。伝統ある販促グッズ提供など、投資対効果が不明確な施策は問答無用で切り捨て、担当部署の声に耳を傾けようとはしない。「現在の会社の仕組みが時代遅れであり、経済合理性が意思決定のすべての基準だ」という彼の前提が社員からの反発を招き社内が騒然となる。ところが、彼の大事にしている前提を知った森若らが売上予測や根拠となる数値を提示すると、今までの反応が嘘のようにスムーズに承認される。

逆から考えると、円城のケースは責任のある立場として着任したリーダーが直面する落とし穴と言えるかもしれない。周囲を牽引し、成果を焦るばかりに自身の基準を周囲に押し付け空回りしてしまうのである。もちろん、数値的な根拠で判断するのは経営者としては正しいはずであり、反発を理由に意思決定の基準を変えれば、これもまた組織が動揺する一因になる。ここで重要なのは、多くの社員の前提が自身と異なることを意識し、急激な変革を求めるだけでなく、自身の前提を丁寧に伝えることであろう。

ドラマの主人公の森若は決して、大きな権限がある訳でも、口が上手い訳でもない。それでも、モンスター社員と思えるような相手に対峙し、周囲の協力を得て難問を解決できたのは、彼女が決して自身の前提を押し付けることなく、社内規定と相手の前提に意識を向けたからであろう。読者の中にも職場のコミュニケーションでストレスを感じている人は少なくないのかもしれない。「あの人に話しても無駄!」と感情的になる気持ちを抑え、冷静な解決策を見出すために各人の前提に注目してはどうだろうか。

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松木 知徳(まつき・とものり)
リクルートマネジメントソリューションズ コンサルティング部 シニアコンサルタント

2007年リクルートマネジメントソリューションズ入社。コンサルタントとして企業の人材開発・組織開発に従事し、数々の表彰を受ける。テクノロジーや科学的な理論をもとにしたコミュニケーションの改善や組織の従業員のモチベーション向上の要因を研究し、新サービスの開発、メディアでの執筆活動や企業での講演などを多く行っている。団塊ジュニア世代(ロストジェネレーション)。