「幸せ」の循環を広めていけばいい
——たしかにそうですが、多くの経営者は会社を持続的に成長させたい、そのために会社を大きくしようとしています。
【横田】なぜ会社を大きくしなければならないのか。たとえば、その会社が安いものを世界中にたくさん提供することを大義名分に掲げてやっている、とします。私からみると、それはwin-lose、一人勝ちのためにやっていることであって、目指しているのはwin-winではないですよね。若いときにヨーロッパ企業の視察ツアーで食品を製造、販売している優良企業を訪問したときのことを思い出します。社員が30人もいない小さな会社でしたが、何百年という歴史がありました。日本の経営者が「こんなにいい業績が続いているのに、なぜもっと規模を大きくしないのですか?」と質問したところ、「規模を大きくすれば、同業他社の売り上げを奪うことになる。奪われたほうは、取り返そうとして値段を下げてくるでしょう」という答えが返ってきました。
われわれの業界でも、一台でも多く売ろうとして値引きに走ってしまう。その繰り返しで、泥沼状態に陥っていくだけです。
——では、横田さんが思い描くいい会社とはどんな会社なのですか。
【横田】会社は社会貢献のために存在する。社会貢献の中で、いちばん大事にしないといけないのはいちばん身近な社員の幸せ=EH(Employee Happiness)です。その幸せな社員が、車の販売、アフターフォローを通じていいサービスをお客様に提供して、お客様を幸せにする。幸せな社員の数を増やし、幸せなお客様の数を増やしていく。この関係性、循環を広めていくと、会社は自然に大きくなる。そういう位置づけです。
社会を自分たちの外に置いていて、何かをやった余力で、稼いだお金の一部を社会に還元しよう。そう考える経営者の方が多いように見受けられます。「利他」が大事だという考え方も、その裏側には「自利」を追求していると社会的に尊敬されないから、ということがあるように思います。そこを私は「三方良し」(=売り手良し、買い手良し、世間良し)の考え方で整合性をとろうとしています。
——お客様への感謝イベントではクルマは1台も売らないそうですね。お客様は幸せになるでしょうけど、そろばん勘定はどうなっているのですか?
【横田】お客様を幸せにするためにやっているイベントは、持ち出しです。時間を無駄にしている、という見方もあるかもしれません。でも、私はそれを「損」とは考えていない。社員が自分の喜びのためにやるのだから、「精神的に得をしている」わけです。社員がお客様のためにあれこれと時間を費やして汗をかくのは、自分のためになること。それをやり続けたら、自然に業績が上がるでしょう。