新人時代の忘れられないひと言

「女子アナは30歳までが賞味期限。使われるのは若いうちだけ」

入社してすぐのころに、制作現場で先輩から言われて面食らった言葉です。地元の安定した企業に入りたい、まずは狭き門と言われる職業から挑戦してみよう……。そんな動機で、覚悟も無いままアナウンサーを志した私は、明らかに業界の研究が足りない状態でした。

実際、入社して半年で様々な番組を任せてもらえることに。当時はまだリーマンショック前でテレビ業界の景気が良かったこともあり、2つの新番組のメイン司会に加えて帯番組のお天気コーナーの担当、ラジオのDJなど様々な番組に出演しました。

それからは慣れない仕事をなんとかこなす多忙な日々が続きます。現在のようにワークライフバランスといった発想はなく、早朝の番組が終わったら夜まで番組の収録、そこから深夜まで翌日のイベントのリハーサル。そして翌日も早朝番組に出演し、夜まで番組収録……これが日常です。目の前の仕事をこなすだけで精一杯。スキルや専門性が積みあがっていくような成長ややりがいを感じる暇もありません。忙しさに反比例するような自分の中身の無さに、これで良いんだろうか? と虚しさを感じることもありました。

女子アナはタレントか職人か?

そんな中で私が励みにしていたのは、新人研修時から常々言われていた「私たちはタレントではない」という先輩の言葉です。限られた時間の中でどれだけ感性を研ぎ澄ませた言葉で勝負できるか。それを極める職人の仕事。そしてそれは経験に比例して得られるスキルです。地元の会社に就職し、定年まで勤めあげたいと願っていた私には希望を感じる言葉でした。

しかし、制作現場に色濃く残る30歳定年説の空気との間で葛藤をしていました。どこの局でも女性が担うのはアシスタント業務がほとんどで、一定の年齢になると他部署に異動するのが通例です。そのため、キャリアの積み重ねが必要な「職人」を目指すことは難しく、当初の思いとはうらはらに自分は賞味期限のあるタレントだと自覚する必要があったのです。