客にもアルバイトにも大人気のスタバ

当然のことながら従業員に楽な仕事を与えれば人が集って繁盛するといった単純な話ではない。従業員が仕事で手を抜いたり偉そうにふんぞり返っているようなお店で働きたいとは誰も思わないだろう。従業員満足度と顧客満足度は表裏一体、車の両輪である。

過剰に利便性を追求し、顧客ファーストであることによって従業員が負担を被ったり、長時間労働になったり、あるいは高品質で低価格の商品を提供するために極端な低賃金で働いている……。インターネットの普及で従来は目に入らなかったそんな部分まで目に入るようになった。顧客だけを優先して従業員を犠牲にするようなビジネスモデルは人手不足の時代に到底受け入れられない。

不人気で慢性的に人手不足の飲食業でありながら、別格と言われるスターバックスコーヒーはアルバイトでも高い人気を誇る。anのアンケートでも、2015、16、17と人気のアルバイトランキングで3年連続で1位となっている。

カフェが若者に人気であることは当然影響しているが、カフェチェーンは他にいくつもある。そんな中でスターバックスが突出している理由はイメージの良さに尽きる。

店舗で提供される商品、接客、居心地の良さなど、顧客体験の質の高さが「ここで働きたい」と思わせる要因だ。つまり顧客満足度が採用に極めて強く影響している。

人手不足でも採用に困らない企業

スターバックスコーヒーは研修に力を入れていることでも知られるが、客の支持が高く、コストをかけなくても採用が容易、つまり採用コストが低ければその分だけ研修にコストをかけることも可能だ。顧客満足度の高さが採用コストを下げ、そして従業員満足度を高める。

先のアンケートでは、高校生・大学生はアルバイトを選ぶ際に「資格や技術が身につく」ことも上位に挙げており、現在の若者は仕事を通した成長を志向していることが分かる。つまり顧客満足度と従業員満足度は相互に高め合っている。

その真逆にあるのがブラック企業で、待遇が悪く従業員が定着しなければ商品・サービスの水準が向上せず、顧客満足度も高まらない。結果的にそんなお店で働きたい人が多いはずもなく、採用コストは高まり、ろくに研修もできず顧客満足度は下がり続ける。

そのような状況では従業員の満足度が高まらず、離職率も高止まりする。結果的にデフレスパイラルのように従業員満足度も顧客満足度も相互に影響し合って下がり続ける。

仕事を通じて成長し、やりがいを得て従業員満足度が高まり、それが顧客満足につながる。飲食業に限らず、そして業種を問わず、人手不足でも採用に困らず高い業績を上げるのはそんな企業であることは間違いない。

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中嶋 よしふみ(なかじま・よしふみ)
ファイナンシャルプランナー

保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。多くの経済誌で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に『住宅ローンのしあわせな借り方、返し方』。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。