8人の養子を育て上げたマダム

私はモナコ公国に住み始めた頃、セレクトショップの店員をしていました。そこのマネジャーと仲良しのマダムは、おしゃべりをするために、よくショップへ遊びにきました。来る度に、これはマイアミのお土産よ、コモの別荘で獲れた果物よ、我が家のワインよ、と必ず何かを持ってきてくれます。それもかなりセレクトされたものばかり。彼女はとても余裕のある生活をしていて、二度目の結婚で一緒になったお相手と、世界中から恵まれない子供達を8人も養子にしていました。ある日彼女が見せてくれた写真には、黒人、白人、アジア人と国際色豊かな兄弟たちが並んでいました。そのお子さんたちも今では立派に成人され、いつも子供達のことを自慢されています。

「人よりも裕福な生活をさせてもらっている私にできることは、夫をサポートすることと、恵まれない子供達を養子に迎え、きちんとした教育を受けさせること」だと話してくれました。実践しようと思ってもなかなか真似のできることではありません。来店するたびに、店員ひとりひとりに声をかけてくれるマダム。そんな彼女のことがみんな大好きでした。まだ20代だった私は、世界にこんなに心の広い人がいるのかと驚かされるばかりでした。

95歳になっても困っている人を助ける

もう一人、モナコの赤十字社でグレース・ケリー皇妃の秘書を務めていたマダム・レジーヌ。彼女は、世界に5000人しか存在しないモナコ国籍を所持する「モネガスク」です。モネガスクと呼ばれるには、先代がモナコに居住、モナコに生まれ、10年以上モナコに住んでいることが条件。モナコ人として生まれるだけで、国から保護を受けることができるので、住居や職に困ることなく、一生優雅にモナコで生活することができます。

彼女は、モナコ人が世界に発する慈善団体をつくってもらいたいと皇妃から頼まれ、慈善団体アミチエ ソン フロンティエー インターナショナル(国境なき友好団)を設立しました。皇妃の願いの通り、その活動はヨーロッパ、アメリカ、アジアと世界に広がっていきました。日本支部も5年前に設立され、95歳になるマダム・レジーヌは、毎年来日されています。「私は恵まれた人生を送らせてもらっています」と、マダム・レジーヌは言います。感謝を忘れることなく、困っている人に手を差し伸べてあげられる存在でいたい。何かをもらったら、周囲の人と分かち合い、喜びをシェアしたいと常に言い続けています。恵まれているからこそ、慈悲の心を忘れず、周囲に愛を与え続ける95歳の女性の意思の強さに、学ばされるばかりです。