社会保障改革が不可欠

最後に、多くの人が「長く働く」ことを選択した場合、それに伴って社会保障の改革が必須である点について触れておきたいなと思います。

これまでお話ししてきた通り、単に働くのではなく、好きなことであったり、やりがいを感じられることでないと満足度に繋がりにくく、長く働くことは困難になってしまいます。いろんな人が、いろんな働き方によって収入を得られるようになれば、働き方が多様化します。

また、長く働くとしたら、従来のような大卒から定年まで継続的に“働き通し”ではなく、長期間のリフレッシュ(休憩)を挟んだり、時代の変化に応じて仕事に必要な知識を得るために大学や大学院などでのリカレント教育(学び直し)の時期を持ちながら、働いていくことも十分あり得るでしょう(著書『Life Shift』で提唱されており、私もそうだろうなと思います)。

前向きな“失業者”も存在する社会

想像してみるに、そういう社会が到来すれば、ある程度数の“失業者”が存在する状況が常態化します。将来に働くつもりはあっても、自ら進んで当面の“失業”を選択する状況は、いまの雇用保険では想定されていませんから、超長寿社会を前提とした安心して休める環境は未整備といえます。

また、働き方が多様化しても、いまの社会保障制度では正規か、非正規か、自営かで大きく差があり、この点においても広く公平な制度の整備は必要でしょう。

人生100年時代に「長く働く」ことが求められ、家計運営としても有効で、なおかつ人として豊かに生きるにもプラスに作用するにしても、残念ながらそれに相応する社会保障制度などのインフラが整っていないのが現状です。

人間の寿命は100歳がゴールではありません。“100歳までどうにか生きればいい”ではなく、寿命が100歳を超えても有効となるような超長寿に対応するまったく新しい諸制度の構築の検討が急務でしょう。

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八ツ井 慶子(やつい・けいこ)
家計コンサルタント

1973年、埼玉県生まれ。生活マネー相談室代表。「家計の見直し相談センター」を経て2013年7月独立。個人相談を中心に執筆、講演を行う。著書に『お金の不安に答える本 女子用』など。