斬新!若者が考える親子向け商品
【原田】皆の話を聞いていると、やっぱり今の親子関係は僕の若い頃とかなり変わってきているようですね。親子の距離は近くなっているし、母の日や父の日のプレゼントも、友だちや恋人に贈るのと同じように真剣に選んでいる印象を受けます。まして結婚しているわけでないのに、「彼親誕プレ」なんていう風習もできてきているようです。
こうした「新しい親子関係」に向けて新しい商品やサービスっていうのがマーケティング上、存在し得ると思うのだけど、皆は何かアイデアはあるかな?
【山本さん】「親子でトレーニングジム」はどうでしょう。友だちに頑張っている姿を見られるのは恥ずかしいけど、親なら大丈夫だし、ダイエットや健康維持など目的は違っても、親子で励まし合えればジム通いを続けられる気がします。それと、「親子で脱毛」もイケるのでは。母娘はもちろん、最近は男性の美意識も高まっているので、息子と父親という組み合わせもアリだと思います。
【原田】最近は中年でも若者でもジムに行く人が本当に増えていますね。中年は健康維持のためでしょうが、若者は主にダイエットのため。男子でも美意識が高まっていますね。脱毛も母娘なら成立するかもしれないね。若年男子でも脱毛に行く子が増えているから、ひょっとすると「母と息子の脱毛プラン」なんていうのも成り立つ時代になってきつつあるのかもしれないね。
【井上くん】「そうだ、息子のところへ行こう」というキャンペーンを考えてみました。子どもが実家を離れている場合、子が帰省することはあっても、親が子のところへ行く機会はあまりない。それって新幹線代が高いからだと思うんです。だから、そんな親が子の学生証のコピーを提示することで、学割がきくようになるといいなと思って。もう一つは、親孝行をしたいけれど何をすればいいか迷っている若者に向けた「親孝旅行(親孝行×旅行)」。20代の社会人にも手が届く価格なら、利用者は意外と多いかもしれません。
【原田】平成の名キャッチコピー「そうだ、京都、行こう」(1993年)じゃなくて、「そうだ、息子のところへ行こう」(笑)。親子仲の良くなった今は、一方的に子供が帰省するのじゃなく、親が子供のところへ行く時代になっている。だから、子供のところへ行く場合は割引が利く、という旅行プラン、斬新だね。
「親孝旅行」も確実に子供世代にニーズが生まれていそうだね。
【橋場さん】東京ディズニーリゾートへ行くプランで「父娘ディズニー」があったらいいですね。映えスポットで何度も写真を撮ってもらいたい女子は多いと思うんですけど、相手が友だちだと遠慮しちゃうと思いました。父と娘の距離が近づいている中で、逆に父親になら遠慮なくお願いできるという子もいるかもしれません。少し値段が張るレストランのディナー付きのプランだったら、特別感もあるので思います。あと、コンサートやスポーツ観戦の「父娘・母息子シート」も売れそうです。片方の親と趣味が同じという友だちもいるので、2人用の家族シートがあったら喜ぶんじゃないでしょうか。
【原田】カメラマンとしての父親をディズニーに同行させる「父娘ディズニー」(笑)。友達よりも遠慮なく自由に振る舞えるし、奢っても貰える。
コンサートやスポーツ観戦の「親子シート」もニーズは確実にあるだろうね。
家族プランが2人用になる日
【堀井さん】私は母娘で映画を観に行くことが多いので、親子のうち息子や娘はチケットが3~5割引になる「家族デー」がほしいです。週に1度そんな日があれば、皆がもっと映画に行きやすくなると思います。それとファッションなど「親子でサブスクリプション」のサービスがあるとうれしい。親子割引があれば、2人同時に入会したくなります。
【原田】「レディースデー」じゃなくて「家族デー」と。今は思春期でも家族で映画に行くのが嫌じゃない子が増えているから、むしろレディースデーよりもボリュームがとれるようになってきているかもしれないね。
斬新なアイデアがたくさん出てきましたね。どれも君たちが話してくれた親子関係とマッチしていて、でも今のところはあまり見かけない商品やサービスばかりです。
昔は「家族プラン」といえば4~5人用が当たり前だったのに、君たちのアイデアは2人用が多く出てきているのも面白い。母と娘・息子、父と娘・息子などバリエーションはたくさんありそうで、今の親子のニーズをつかんだ、新しいコンセプトと言えそうだね。
近年の親子関係は、昔のような「縦の」主従関係ではなく、友達関係に近い「横の」関係になりつつありますね。
個人的には、子どもの自立心に悪影響はないのか、親はきちんと子離れできるのかなど、さまざまな疑問が浮かぶ面もあります。
しかし、その良し悪しは別にして、企業はこの親子関係の構造的な変化をしっかり押さえておく必要があるでしょう。すでに従来のファミリー層の枠を超えた、新しいマーケティング戦略が求められるようになっているのだと思います。
構成=辻村洋子 写真=iStock.com
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。