回復力は女性のほうが強い
苦しい状況に置かれた時、そこから何とか回復する力をレジリエンス(回復力)と言います。一部の研究では、このレジリエンスに性差が見られたと(男性に比べ女性の方がレジリエンスが高い)報告されています。また厚生労働省の報告によると、うつの罹患率は男性に比べ女性が多いにも関わらず、自殺者は、女性に比べ男性の方が多いと報告されています。
脳の中では、このレジリエンスと帯状回や前頭前野の一部である眼窩前頭皮質といった領域が関連しています。帯状回は、心の痛みを強く感じるようなときにも活動が大きく見られる場所であり、レジリエンスが高い人(回復力が強い人)では、この領域の活動が小さかったのです。
また不安になった心は、褒められ承認されることで回復することがわかっています。眼窩前頭皮質は、脳の中の報酬系とよばれる一部を担っており、社会的に承認されたときにも活動する部位であることもわかっています。レジリエンスが低く落ち込んでいる、あるいは、不安感から強く自己顕示をするような男性に対しては、まず承認してあげることで、メンタルが安定するのかもしれません。
子供時代からの埋め込みをしない
女性の社会進出が進んでいけば、男性であれ、女性であれ、家庭的であることも、社会で活躍するパワーを持つことも望まれ、伝統的な「らしさ」は、どんどんその境界が曖昧になっていくのではないかと思います。そのためには、女性自身も「男性らしさ」「女性らしさ」にこだわらないスタンスを取ることが重要になってくるのではないでしょうか。パートナーや周囲の人に対してのみならず、特に、次世代を担う子供達を育てていく場面で、「男の子なんだから」という言葉を用いて教育をしていくことは、慎重にしていく必要があるのでしょう。
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内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。