一歩踏み込んだ質問が突破口に

そんな彼女を変えたのは、4年目の異動だった。そこは「建設課」という部署で、電気設備の改修・保安・点検のほかに、補修工事や老朽化した電気設備の交換を提案するのが仕事だった。受注が決まれば工事計画を立案し、協力会社に依頼し、現場の監督業務もこなす。

「ビルのオーナーさんから『なんでこんなに高いの?』と値下げ交渉されるのはしょっちゅうで、うまく説明できず、事務所に戻って先輩にフォローしてもらったことも。工事現場では、職人気質な協力会社の方から『担当者、女性なの?』と言われてしまいました」

知識も技術もない自分が、どうすれば信頼してもらえるのか――。毎日そればかり考え、プレゼンの前夜、質疑応答のシミュレーションをしているうちに、朝になっていたこともあったという。

そんなとき、突破口になったのは、「一歩踏み込んだ質問」をすることだった。経験豊富な工事のベテランに異論をはさむのは難しい。だが、質問なら失礼にはならない。本や先輩社員から得た知識をもとに、「私はこういうふうに聞いていますが、実際はどうでしょう?」と聞き、一緒に問題を解決したいという姿勢を見せるようにした。

「そのうち、『女の人が来た』という扱いだったのが、『あ、荒木さんだ』と言われるようになって。現場での会話が増え、工事が滞りなく終わるたびに、少しずつ自信がついていきました」

それから2年後、再び保守・点検の部署に戻ったが、同じ仕事のはずなのに、「仕事の見え方」が一変していたという。

「電気設備を一から設置する経験をしたおかげで、仕事の全体像をイメージできるようになりました。『今日は怒られなかった』ではなく、自分の作業がお客さまの安心につながっていると意識しながら動けるようになったんです」

そして2年前、同じ事業所に初めて女性の後輩が配属されたことで、新たな目標もできた。

「私のせいで、後輩の女性社員に変なイメージを持たれないようにしないと、と気を付けるようになりました。『甘えている』と思われないよう、安易にものを聞く前に、本やインターネットで調べることを徹底しています」

特別扱いされることは、働きやすさとは違うと荒木さんは言う。

「女性が働きやすい職場は男性にとっても居心地の良い職場だと思います。そのために、今の自分ができることはないか、日々模索しています」

撮影=市来朋久