「黄色いゾウ」に導かれ、危険な高圧電流を扱う職場に飛び込んだ荒木さん。2000人いる検査員のうち、女性は7人。偏見や苦労を乗り越え、大きく成長したきっかけとは――。
荒木 瞳●関東電気保安協会 多摩事業本部 国分寺事業所 電気技師、1989年、東京都生まれ。2012年、中央大学理工学部を卒業後、入職。13年に電気主任技術者、電気工事士取得。電気設備の保守・点検を行う現部署のほか、建設課で工事監督業務も経験。

電気の音、そして臭い。五感を総動員して地域のインフラを守る

オフィスビル、工場、病院などに「キュービクル」という設備がある。屋上や駐車場の隅にひっそりと置かれ、変電所から供給される6600Vの高電圧を受けている。こうした電気設備の保守・点検業務に携わっている荒木瞳さん。感電すれば命に関わる危険な職場だが、「電気って、無音ではないんですよ」と、彼女は目を輝かせて語る。

「とくに、電圧の高い場所ではいろんな音が聞こえます。たとえば、ブーンという音の中にジリジリジリといった異音が混ざっていたり、かすかに何かが焦げているような臭いがしたら、不具合があると判断します。だから、現場ではいつも五感を総動員しています」

関東電気保安協会で働き始めて約6年。いまは後輩を教える立場にあるが、「この仕事は、やっぱり経験がものをいうんだなぁ」と痛感させられるという。

たとえば、増築を繰り返した古いビルでは、ブレーカーにつながる配線がスパゲティのようにからみ合い、一目見ただけではトラブルの原因が特定できない。そんなとき、先輩の検査員(専門資格を有する電気技師)が「前にも、これと似た案件があった」と、瞬く間に解決してしまうことがある。そのたびに、「自分はまだまだだ」と身を引き締めるのだ。

同協会には検査員が2000人以上いるが、女性はわずか7人。テナントビルなどの施設では日中に電気を止められないため、定期点検は深夜から朝にかけて行う。そんな特殊な事情も女性が少ない一因だろう。

中学、高校のころは看護師にあこがれていたという荒木さん。医療用ロボットに興味を持ち、大学では電気工学を専攻したが、電気業界に入ったのは「たまたま」だったという。

きっかけは、2011年の東日本大震災だった。

「ちょうど就職活動の時期に、計画停電を経験したんです。当たり前のように使っていたエレベーターや地下鉄が一斉に止まって、社会のインフラを支える仕事って、こんなに大事だったのかと気づきました。でも、関東電気保安協会のことは知らなくて……」

新卒採用の合同説明会。学生と企業の担当者がひしめく会場で、荒木さんの視界に愛らしい黄色いものが飛び込んできた。

「安全エレちゃんというゾウのキャラクター。協会のマスコットなんです。私、ゾウが大好きなので、吸い込まれるように協会のブースに入っちゃって(笑)」

1年目は資格取得の勉強をしながら、先輩に付いて仕事を学んだ。「最初はわからないことだらけ。目の前の仕事をこなすので精いっぱいで、『今日は怒られずに作業できた』とホッとする毎日でした」