ドラッグストアは“ボタニカルだらけ”

そんな中でも、支持を集めている商品の一つが「ボタニカル」系です。

「いまのヘアケアブランドの流行は『ボタニカル』商品です。もともと“植物由来の”という意味ですが、シャンプー&コンディショナー商品から、人気に火がつき、現在はスキンケア分野や、オーラルケアのハミガキ商品などに移行しつつあります。ドラッグストアなど大型店の店頭に行くと、商品棚が“ボタニカルだらけ”です」

こう話すのは、ブランドコンサルタントの守山菜穂子さん(ミント・ブランディング代表取締役)。「Beautiful 40's(ビューティフルフォーティーズ)」というサイトで女性のヘアケア意識も取り上げてきました。

守山さんの話を受けて、筆者も複数のドラッグストアを視察しましたが、確かに「ボタニカル」商品が売り場の棚に広がっていました。

「その人気を、私は『自然欠乏症候群』や『バイオフィリア(Biophilia・自然愛好傾向)』と近いニーズに捉えています。都会で働く人たちが、日常生活に自然が足りなくて、少しでも生活に取り入れたいという感じ。しかも、ボタニカル系商品のよさは、“ユニセックス”なこと。性別を感じさせないパッケージから、ひとりの人間として素に戻り、『女子を頑張らなくていい』というメッセージを感じさせます」(同)

こう考えると、現在のヘアケア・キーワードのひとつは「自然体」かもしれません。

もう一つ、静かなブームとなっているのが「水のいらないドライシャンプー」。「『資生堂 フレッシィ ドライシャンプー』が一番人気です」(前出・守山さん)とのこと。

この話を伝えた、20代の女性編集者(前出)は、「調べてみると『忙しくて、お風呂に入らず寝てしまいたいときに使う』『長時間汗をかいて、気持ち悪いときにいい』というコメントが多かったです。清涼感が強いようで、私も盛夏になったら買ってみようと思います」と関心を持っていました。

「清涼感の強いメンソール系は、主に男性が好む」という先入観も、改める時代になってきたのかもしれません。

「機能的価値」と「情緒的価値」

マーケティング用語に「機能的価値」と「情緒的価値」というものがあります。

もともと米国の経営学者であるデビッド・アーカー氏(ブランド戦略の大家)の唱えたもので、同氏は「自己表現価値」と合わせた3つを「価値(ベネフィット)の3つの種類」として定義づけました。

ここでは「機能的価値」と「情緒的価値」で考えてみましょう。大まかにいうと、商品の持つ性能が「機能的」、商品を使うことで生まれる感情が「情緒的」といえます。

リンスインシャンプーやメンソール系は「機能的」が明確な商品です。一方、ボタニカル系は、使う人にとって「情緒的」な意味合いが強いといえます。もっとも、メンソール系を使った“爽快感”は「情緒的」でもあるので、商品のどこに軸足を置いて消費者に訴求するか――といえるかもしれません。

現代の消費者は、総じて「その日の気分でピンと来たもの」を選びますが、シャンプーなどのブランドは一度買うと、よほど合わない限りは、我慢して使う傾向にあります。そのため各メーカーは、新商品や新生活などの機会に「ブランドスイッチ」もめざして工夫をこらすのです。

これから盛夏の時期を迎えます。「夏休み」に宿泊旅行に出かける人も多いでしょう。そんなとき、宿泊施設にどんなシャンプー類が置かれているか、チェックしてはいかがでしょう。「機能性」「情緒性」の訴求が見えてくるかもしれません。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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