合理的な食品に心がザワつく
人工的に作られたイチゴや牛肉が見た目も味も本物と遜色なく、人間に必要な栄養素が詰まっているとしたら? そして安定的に食べ物を供給できるのなら、飢餓の問題も解決できるだろう。
しかし、単純に栄養さえ取れればそれでいいのか。完全に合理化された食品を口にしたときに、はたして幸福感があるのか。荻野さんの心はザワつくのだった。
たとえば、ご飯が炊きあがった匂いをかいだときや、丁寧にとられた出汁を飲んだときに、私たち日本人はなんともいえない幸福感に包まれる。この心豊かな食の原体験を次世代に残すにはどうしたらいいのかと荻野さんは思いを巡らせた。しかし、手作りの食事サービス、作り方、レシピ提供のビジネスモデルだと、その料理の作り手は結局ロボット。人、地球、歴史、いろんな繋がりに裏付けられた心豊かな食の感受性を育てる分野――それが「母乳」だと、彼女はひらめいたのだ。
自分の食べたものが母乳に影響
「母乳は、ほ乳類である人間が産まれて初めて口にする“食”。母の胎内から出てきてすぐの赤ちゃんは、目が見えないのに、誰に教えられたわけでもないのに、本能的にお母さんの乳首に吸い付いてくるんです。哺乳類としての野生的な行為であり、母親の愛情をダイレクトに感じられる“心豊かな食”でもあります。でも、十分な量が出ないとか、自分の食べたものが母乳に影響して子どもの体にトラブルが起きるなど、母乳の量や質に問題を抱える女性が多い。そこで授乳中のお母さんたちから母乳を提供してもらって成分を分析し、管理栄養士から、足りない栄養素や、逆に控えたほうがいい食材をアドバイスするサービスを考案しました。彼女たちが自分の食生活をきちんと見直し、その結果、より良い母乳に近づけることができたらと思ったのです」
ブラウンシュガーファーストは、銀行からお金を借り入れるなど、従来通りの方法で立ち上げた会社だったが、Bonyu.labは、シードフェーズ(ビジネスアイデアが種の段階)からエンジェル投資家に売り込みをかけて資金を募るなど、シリコンバレー方式で会社を誕生させた。荻野さんが目指すのは「ユニコーン企業」。評価額10億ドル(約1000億円)、未上場のスタートアップだ。