『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が大ヒットし、社会現象になっている。消費者心理に詳しい桶谷功さんは、これほどのブームを引き起こしているのだから、「時代の気分」に応えている何かがあるはずと指摘。今、この映画に日本中が涙する理由とは——。

※禰豆子の禰は「ネ」に「爾」が正式表記

横断歩道を歩く人々
写真=iStock.com/bee32
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マーケターなら、趣味に合わなくても観ておくべし

こんにちは、桶谷功です。

吾峠呼世晴さんの漫画『鬼滅の刃』がアニメ化・映画化され大ヒットし、もはや社会現象にまでなっています。

これだけヒットしているのなら、一度は見ておかねばなりません。家族とは都合が合わなかったので、オジサン1人で映画館に行ってきました。

ちなみに、このようにブームを巻き起こしているものがあったら、たとえ自分の趣味ではなかろうが、軽薄なはやりもの好きと思われようが、必ず一度は見ておくべきです。社会現象にまでなるものには、どこか優れたものがあるし、「時代の気分」に応えている何かがある。それが何なのかを考えるための練習材料に最適なのです。

映画館に来ているのは子ども連れのお母さんたちが大半でしたが、若い人や女性同士の姿も目立ちました。そんななかで中年男性が一人で見に来ていたのは、かなり浮いていたかもしれません。

マーケティングセンスを磨くには、どれほど場違いな場所でも臆さず足を踏み入れることが大事です。私は化粧品売り場だって1人で歩くし、レディースの服しか置いていないブティックに入ることもよくあります。小さい女の子に「おじちゃん、おじちゃん、ここ違うよ」と言われたときは、「お、おじさんは仕事でね」と冷や汗をかきながら弁解したこともありました。

マーケティングによって大ヒット映画が生まれることはない

社会現象の本質をとらえることは、マーケターにとってとても大切です。ただ逆説的ですが、大ヒット映画がマーケティングから生まれることは、ほとんどありません。映画や文芸作品というのは、マーケティングに基づいてつくると、最大公約数が好むものになってあまり面白くなくなる。ただし例外はあって、それがディズニーの映画です。

例えば『アナと雪の女王』は、女性向けの商品のコマーシャルのつくり方と同じで、「かよわくて守られるお姫様ではなく、自ら行動する女性」というような、時代に共感される女性像を造型するところからスタートしている。『鬼滅の刃』はそうではなく、吾峠呼世晴さんの「こういう世界観を描きたい」という思いからスタートしていると思います。