4000人を対象に研修が始動

アンコンシャスバイアスは、無意識なだけに自分自身では気づきにくい。同質の人が集まる、多様性のない集団でも同じことが言えるだろう。だからこそ、客観的な視点を得られるこの研修は重要な意義を持つ。味の素の風土改革も、全社員が偏見という存在に気づけば、一気に加速するのではないだろうか。

全社員導入に向けて準備が進んでいると話す2人

今年度の下期からは、いよいよ全社員への研修が始まる。だが、対象となる社員数はおよそ4000人。これだけの大人数を相手に、どう研修を行っていくのだろうか。この点についても、2人はすでに手を打っていた。

研修には、独自に製作したパク氏監修のeラーニングを活用。受講後に皆でディスカッションする時間もとるそうで、構成は経営層や人事部メンバーが受けたものとほぼ同じだ。第1回目の実施から約1年半、これほどスピーディーに全社展開を実現するには、事前によほどしっかり戦略を練っていたに違いない。2人は今も、思い描くゴールに向けて着々と歩みを進めている。

社員とともに成長する企業へ

「製造現場なら雇用形態、営業部門なら世代など、バイアスに関する課題は部署によって違います。それらに柔軟に対応できるよう、タスクフォースにはさまざまな部署のメンバーに参加してもらっています。私は思ったことを口に出してしまうタイプなので、『それは私の当たり前とは違う』と言えますが、そうじゃない人もたくさんいるはず。そうした言いにくさを取り払って、誰もが安心して意見を出し合える会社にしていきたいですね」(小池さん)

「昇格でも転勤でも、職位や性別といった属性で判断するのではなく、本人の思いを聞いて判断する風土にしたいと考えています。まずは本人とコミュニケーションをとって、どう思っているのか、どう生きていきたいのかを聞いてほしい。そうした行動は社員一人ひとりの能力発揮や成長につながり、やがて会社の成長にもつながっていくと思います」(五十嵐さん)

味の素の取り組みからは、社員の人間的成長を重視する姿勢がうかがえる。社員が成長することで会社が成長し、会社の成長がまた社員の成長に還元される。この好循環が実現すれば、働くことはもっと楽しくなっていくに違いない。味の素の今後の取り組みにも注目したい。