転職組だから感じた“小さな違和感”
「外資系から転職してきた私にとって、味の素の企業風土はとても新鮮でした。社歴が長くて愛社精神にあふれた人が多く、職場の雰囲気も暖かい。でもその反面、外部の人にはわからないような独自の用語や文化ができあがっていて、最初はなかなかついていけませんでした(笑)」
人事部の小池愛美さんは、入社当初のカルチャーショックをそう語る。同じく中途入社の五十嵐千絵さんも、横で「そうそう」とうなずいた。2人とも所属は人事部で、ダイバーシティ推進タスクフォースのメンバー。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)研修の発案者であり、現在も企画運営に参加している。この研修を思い立ったきっかけは、生え抜きではない2人だからこそ感じた“小さな違和感”だった。
例えば、味の素には「ピカピカ」という社内用語がある。意欲も能力も高い人を指す言葉だそうで、「あの人はピカピカだ」といううわさが広まれば、将来のリーダー候補生として多くの成長機会が与えられるのだという。
“あうんの呼吸”が多様化のハードルを上げる
だが、そうした評価は、元をたどれば誰かが受けた何となくの印象にすぎないかもしれない。もしそれが思い込みからのものだったとしたら──。「実力はあるのに、ピカピカと言われなかったがために注目されない人たちがいる。それは公平じゃないと思った」と五十嵐さん。
仕事上のコミュニケーションが、暗黙の了解やあうんの呼吸で進むことにも疑問を感じていた。社員にとっての当たり前は本当に正しいのか。そこに無意識の思い込みや偏見はないか。会社自体としても、働き方改革が一定の成果を上げたことから、次の課題を「多様性を受容する組織風土づくり」に定めていた。
「あうんの呼吸にもメリットはありますが、ともすれば個人が意見や思いを言い出しにくい雰囲気になりがち。そうした環境では多様化もなかなか進みません。ピカピカだから、女性だから、外国人だからといった視点を取り払って、相手を1人の個人として見る意識を、全社員が持ってくれたらいいなと思いました」(五十嵐さん)