初回の受講生は経営陣! 全社展開への戦略
研修の第1回目は2018年3月に開催。研修といえば管理職や一般社員が受けるものというイメージがあるが、彼女たちがとった戦略は大胆だった。初回はいきなり経営層に受講してもらったのだ。ゆくゆくはこの研修を全社に展開することを狙ってのことだった。社歴の長い男性がほとんどを占める受講者に対し、講師はアンコンシャスバイアスの第一人者として知られる女性、パク・スックチャ氏。この人選も功を奏し、研修は大成功を収めた。
「ドキドキしていましたが、役員の皆さんが活発に議論してくださって、大いに盛り上がりました。経営層は普段から公平・公正な判断への意識が高い方たちですが、パク先生が男女別の昇進度の違いなど、海外のデータを基に論理的に解説すると、無意識のバイアスが根強く存在することに驚きの声が上がっていました」(五十嵐さん)
手応えがあったことから、2回目は人事関連部署のメンバーを対象に実施。人事権を持つ人たちこそ、思い込みを排したジャッジが必要と考えたためだ。研修は第1回目と同様、パク氏の講演や受講者同士のフリーディスカッションで構成され、アンコンシャスバイアスへの気づきを促す内容だった。
採用担当者は客観的データに大ショック
受講した経営企画部の田中菜穂さんは、自分の無意識の行動を注意されるのかと身構えていたそう。だが、パク氏の「偏見は誰もが持っているもので、それ自体はいけないことではない」という言葉に、研修を素直に受け入れる気持ちになれたという。
「講演やディスカッションを通して、人によって偏見の程度が違うこともわかりました。身構える姿勢が解けたおかげか、私自身も素直な意見を言えてさまざまな気づきを得ました。皆が最大限の力を発揮するためには、意見を言いやすい環境が大事ですね。バイアスへの気づきを得ると同時に、多様な意見が受け入れられる風土づくりにも取り組まなくてはと思いました」
一方、人事部の岡本武さんは、能力は同じでも採用される割合には男女差があるという客観的データを見せられて、衝撃を受けたという。長年採用を担当してきて、応募者に対する判断力にはある程度自信を持っていた。それが、思い込みだった可能性もゼロではないと気づいてショックだったのだそう。
「以来、直感的にこの人は合わないなと思っても、別の視点で見直すことを心がけるようになりました。履歴書も、名前や性別を隠して見るようにしていますね。ただ、自分なりの経験則も有効だと思っているので、それとバイアスとの区別が難しい。これからの自分の課題だと考えています」