「この人が上にいてもいい」と思われるリーダーに

最後に「自分の育て方」についてお話ししたいと思います。自分を成長させていくためにはどうすればいいか、いいリーダーとは何か、私なりの考えをお伝えしますね。

私は、部下がリーダーに求める資質は、信頼できる、ただのグループをチームに変えられる、部署を越えて影響力がある、の3つだと思います。つまり、重要なのは組織や社会全体を見渡す広い視野であり、カリスマ性や強力な統率力ではない。ここから、私はいいリーダーの条件とは、優秀な部下に「こいつが上にいてもまぁいいか」と思ってもらえることだと考えています。

最初にお話ししたように、私はもともとは研究室にこもっているのが好きなタイプで、社長になりたいと思ったことは一度もありません。でも、会社の将来を「こうなったらいいな」と妄想するのは大好きでした。そのうちに人とつながることや着火役の楽しさも知り、少しずつ世界が広がって今に至ります。

管理職になって以降は、部下を育てることの楽しさにも目覚めました。私は、部下はみなその人なりに最善を尽くしていると信じています。だから、足りなく見える部分があれば、その部分を引き上げるようなアドバイスをしたい。どう言えばその人にとってよいアドバイスになるか、どうすればやる気に着火できるか、この2点は今も日々考え続けています。

自分なりに成長したなと感じる部分は、やはり視野が広がったことでしょうか。自分でも試行錯誤はしてきましたが、視野は昇格するにつれて広がる部分も大きい。職位が上がるほど上の人の目にも止まりやすくなるので、さらに昇格のチャンスが増えてまた視野が広がるという繰り返しが生まれます。これがいいリーダーを作っていくのかもしれません。

私もまだまだ勉強中ですが、いつか山頂から世界を見渡すように、広い視野をもって部下を導ける人になりたい。部下から「こいつが上にいてもいいか」と思ってもらえるリーダーを目指して、歩んでいきたいと思います。

海老原育子(えびはら・いくこ)
ジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケア カンパニー代表取締役プレジデント
1965年生まれ。90年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、住友スリーエム(現スリーエムジャパン)に技術職として入社。99年米国本社に転籍。インターナショナルディレクターとして、約60カ国の世界展開を担当。2013年ジョンソン・エンド・ジョンソンに転職し、コマーシャル・オペレーションズ&ストラテジー本部長。16年2月に最高執行役員(COO)、16年10月より現職。

文=辻村洋子