組織改革と事業建て直しの4ステップ
次に、事業建て直しを2度担当した経験から、私なりの建て直し方をみなさんにお伝えしたいと思います。例えば、自分を雇ったボスから「業績が下がっているから成長軌道に戻してくれ」、「ただし予算はないから現行メンバーのままで改革してくれ」と言われたらどうしますか? 私の場合は4つのステップを踏みます。
ステップ1は「あるべき姿を設定する」。私は、現場に入ったらまず最初に、社員みなが目指す組織像を明確にします。ビジネスが成長軌道にある、メンバー全員が同じ目標に向かって団結しているなど、「こうあってほしい」という理想像は誰もが持っているもの。この理想像をすくい上げるため、私は上司から部下まで全員参加の「不満大会」を開催しました。
そうすると、「私たちはこんなはずじゃない」という思い、つまり現状への不満やいらだちがどんどん言葉になって出てくるんですね。これは現状と理想のギャップからくるものですから、現状に対する悪口を言っているうちに、自然と理想も見えてくることが多い。この理想こそが「あるべき姿」。そしてその姿を見定めたら、明文化して全員で共有することが重要です。
ステップ2は「必要な人が必要な場所でリーダーシップを持てるようにする」。このステップでは、現状の管理職にはこちらの期待値を明確に伝え、実力があるのに下の職位にいる人には特別プロジェクトを与えて、それぞれが適切なリーダーシップを発揮できる環境を作ります。このステップを経ると、リーダー職だけでなく部下の意欲も上がり、部署ごとの活動もスムーズに行きやすくなります。
オーケストラのように「感動を生む組織」へ
ステップ3は「会社としての戦略を伝える」。これは、こちらはちゃんと先のことも考えているよと示すために行うものです。私は、まずは今年のうちに実現すべき短期目標を伝えて、その後少し業績が落ち着いてきたら中長期計画を発表するようにしています。
ビジネスの現場には、先の流れが見えたほうがモチベーションが上がるタイプの人も少なくありません。こうした人の意欲を低下させないためには、業績安定化からビジネスモデル構築、新ビジネス展開までのプランを「見える化」しておくことが大切です。具体性を伴わない何となくのプランでも、メンバーのモチベーション維持に効果があります。
そしてステップ4は「プロセスを見直してボトルネック(業務効率などを落としている部分)をなくすこと」。各部署の役割を調べて流れを見直し、必要であればここで初めて人材の配置換えを行います。私はよく、新たなポジションを作って「誰かやらない?」と社内公募します。自ら応募してきた人なら、多少つらいことがあっても頑張ってくれるはず。その「やる気」は、プロジェクトを導くうえで大きな力になると信じています。
組織はオーケストラのようなものです。一人ひとりが一流の演奏家であっても、自分の音だけを聞いて演奏していたのではいい音楽に聞こえません。全員がみなの音を聞いて合わせることで初めてすばらしい音楽になり、感動が生まれるのです。こうした思いから、ビジョンケア カンパニーでは、ジョンソン エンド ジョンソンの「私たちの使命(クレド)」に加えて、自分たちのあるべき姿を明文化し、全員で共有するようにしています。このような形で共有しその精神が理解できていれば、どんな局面でも社員が同じ方向を向いて動けるようになります。
もし、また事業建て直しを任されたとしても、私は今ご紹介したのと同じ方法で進めるでしょう。ビジネスを成長軌道に戻すには組織改革が不可欠で、それには人のやる気に火をつける工夫が必要。私の役割は着火役です。私にとってはこれがとても楽しくて(笑)、「着火したな」と思えたときは心底うれしい気持ちになります。