ラストに明かされる、案内人の秘密

ところで、どこまでも謎めいている案内人の平坂だが、この名前はどうやら業務上のビジネスネームのようなものらしい。本作の序盤では、その名前が島根県の黄泉比良坂(よもつひらさか)に由来することを、ハツ江に看破されている。

黄泉比良坂とは、古事記に記述が残る、あの世とこの世の境い目のこと。まさにその狭間に存在する彼の役名にふさわしいが、そんな平坂にも実は、かつて現世に生きた過去がある。もともとは平坂も他の登場人物たちと同じ人間だったのだ。

しかし、写真館を訪れる人々と違い、彼は生前の記憶を持っていない。本当はどんな名前なのか、現世で何をしていたのか、一切の情報がないのだという。唯一、手元に残されているのは、自身の姿が写るたった1枚の写真だけ。

それがいつどのような経緯で撮られたものなのか、なぜ彼がすべての思い出を失ってしまったのかは、本作のラストに明かされる。このあたりの構成はミステリー出身作家らしい手腕というべきだろう。

写真館にやってきた3人と奇妙な案内人の人生を通して、感動と驚きをじっくりと味わっていただきたい。