学習によって「英語が得意な脳」はつくられる

私たちの研究チームは、137人の日本人を対象に実験を実施。まず英語能力が高い人で発達している脳の場所を調べました(【図表1】の赤い部分。緑の○部分は図内下の英語能力との相関をプロットした部分)。

出典:Hosoda et al., Journal of Neuroscience, 2013

続いて英語ができない人に、4カ月間、毎日、1日約1時間ずつ英単語や英文和訳、英作文などの勉強を行ってもらいました。その結果、英語の能力が約30%アップし、さらに、英語能力が高い人で発達していた右下前頭回が、約6%程度大きくなっていました(【図表2】)。

出典:Hosoda et al., Journal of Neuroscience, 2013

ところが学習終了1年後、大半の人は英語能力が低下しており、それに伴い、一度学習後に発達した右下前頭回も学習開始前と同じ程度の状態に戻っていたのです。一方で、訓練実験終了後も自発的に英語学習を続けていた少数の参加者では、英語能力も、大きくなった脳の体積も維持されていました。

ここで重要なのは、生まれ持った脳がその人の英語能力を決めるのではなく、成人を過ぎても学習によって脳が変化し、英語が得意な人の脳に近づくことができるということです。

「続けられる脳」も後天的につくることができる

学習によって「英語が得意な脳」に変化させたいと考えたとき、学習を続けられるかどうか、努力できるかどうかが重要なポイントになってきます。実は、上述した英語の実験では、全員、学習スケジュールや内容も確認し、「やりきります」という強い意志を持った人たちでした。ところが開始1週間以内に、約半数の人がドロップアウトしました。この「ドロップアウト現象」、その後の私の研究によって、英語に限らず、様々な学習や課題においても同様に起こることが明らかになりました。

実際、英語だけでなく、様々なプロフェッショナルスキルの獲得、あるいは、禁煙やダイエットで成功をするために必要なのは、才能の有無ではなく、努力を続けられる力“persistence”であることが最近の研究で示されてきています。

そして、私達の研究チームでは、このpersistenceを司る脳の場所(前頭前皮質の一部)があることを明らかにし、その人が努力を継続できる人なのかそうでないのかを予測できるAIを開発し特許を取得しました。この脳の場所は前述の英語が得意な人が発達している右下前頭回とは違った場所ですが、同様に後天的に鍛えられる、つまり、「努力できない脳」も「努力できる脳」に変えられることがわかってきています。