昇格した直後、長男の病気で介護休暇

プロジェクトが始まったとき、力石さんは第二子を出産して復帰したばかり。仕事と子育ての両立に悩み、モチベーションを保つのは簡単なことではなかったという。さらに、製品の発売後には長男の病気が発覚。医療関係者に製品を広める部署「学術」部門の係長に昇格した直後、1年間の介護休暇をとることになった。

休暇中は、自閉症の長男とともに養護学校へ母子通園した。それまでは、病気も仕事と同じく頑張れば結果が出ると信じてきたが、通園を通して、そうではない事柄もあると学ぶことができた。

「いい先生や友人に巡り会えたおかげで、苦手なことを克服するよりも、いいところを伸ばそうという考え方に変わりました。今、息子は得意な分野で大学を卒業し、私ともたくさんお喋りしてくれます。本当によくここまで育ってくれました」

考え方の変化は、仕事にもよい影響をもたらした。介護休暇から復帰後、力石さんは目覚ましい活躍を続ける。スキンケアシリーズ「オバジ」の日本導入を成功させたのち、マーケティング本部でマネジャー、副部長とステップアップ。40代の10年間は、子育てと仕事に無我夢中の日々を送った。仕事への意欲も高く、最も充実していた時期だった。

後輩の一言にショックを受けて反省

ところが40代後半に入ったとき、後輩の女性から「力石さんみたいになりたくない」と言われてショックを受ける。自分では苦労も含めて仕事を楽しんでいたつもりだったのに、そんなに必死に見えたのか──。

「管理職のプレッシャーもあり、すべてやり遂げようと頑張りすぎていたのかもしれません。後輩に『そこまでの頑張りを求められるなんて、私にはできない、したくない』と思わせちゃったのかなと。仕事と家庭のバランスは人それぞれなのに、私は彼女の思うバランスに寄り添えなかった。もう少し違う働き方を見せればよかった、と反省しました」

実際の力石さんは、とても気さくで親しみやすい雰囲気だ。少し早口の関西弁で冗談も交えながら話し、聞き手を楽しませてくれる。けれど、ものづくりへの思いはどこまでも熱く、老舗製薬メーカーとしての社会的責任も決して忘れない。仕事を誠実に、責任を持ってやり遂げようと奮闘する姿が、後輩には“頑張りすぎ”に見えたのかもしれない。

それ以来、力石さんが心に留めていることがある。人生を形づくる要素は人によって違うが、自分の力を各要素にバランスよく配分することが大事だと。今では、後輩の女性たちにも「バランスがよいほど人生は豊かになる。自分なりの要素を見つけて、それぞれと誠実に向き合って」と伝えている。