男性は言葉どおりに受け取ってしまう

このように、「すごいですね」と言ったりお世辞を言ったりすると、短期的には「あの子、いいよね」と男性からの評判は良くなるけれど、長期的に考えるとあまり良いことはありません。

私が大学の講義で「君たち女子が男子にすごいと言ってしまうのがいけない」と言ったとき、女子からのレポートに「私たちがすごいと言うとき、すごい(馬鹿だね)という意味を込めています」というものがありました。確かに、彼女たちは心からすごいと思っているわけではないのですが、男性は単純なので裏メッセージを受け取らない。言葉どおりほめられたと思ってしまうのです。

男性の自慢をスルーする勇気が必要

私が東京大学の本田由紀教授と実施した合同調査では、「女性が男性を立てると物事がうまく進むことが多い?」という質問で、女性はそう思っているけれど、男性はそう思っていないという傾向が見えました。その差がどうして出るかと考えると、現実に女性は職場でも家庭でも男性を“立てて”いるが、男性には“立ててもらっている”という意識がないということなんですね。女性からすると、男性を立てても感謝されず何もいいことが起こらない。忙しそうにしているけれど成果はでていないような男性を図に乗らせてしまうだけなんです。

また、働き方改革の観点からしても、女性が男性を持ち上げてなんとかうまく回していくというような状況ではありません。残業していることをほめている場合ではないのです。

女性が反応しなければ「自慢男」も「勘違い男」も世の中から滅びていくはずなのですが、リアクションする人がいるからまだ残っているわけです。言われたときスルーしたら、そのときだけは気まずいかもしれませんが、今後、自分も長く居続けるだろう職場の文化を変える、もっと大きく言えば日本の男女関係を変えていくために、反応しない勇気が大事だと思います。

田中 俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。

構成=小田慶子 撮影=市来朋久